高野 弦(たかの・ゆづる) 朝日新聞社前ベルリン支局長
1966年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。宇都宮、浦和支局、東京本社経済部、アジア総局(バンコク)、ニューデリー支局などを経て、2016年から2019年までベルリン支局長。この間、経済部次長、国際報道部次長・部長代理を務める。著書に「愛国とナチの間~メルケルのドイツはなぜ躓いたのか」(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
カリスマ・メルケルに比べ見劣り感/山積する課題をどうかじ取り
ドイツでは1957年以来、同盟かSPDのどちらかが核となるか、あるいは両党が組む形の2党の連立政権が続いてきた。ショルツ政権は、環境規制を求める緑の党、市場原理を指向するFDPとの3党連立となる。与党間の利害調整が難航する局面が、これまで以上に増えることになりそうだ。
ドイツは来年末までに、すべての原発の運転を終える方針だ。フクシマの事故があった10年前、メルケルがトップダウンで決断した。16年ぶりに政権入りする緑の党は、脱原発とともに脱石炭火力を強く主張。連立の合意書では、脱石炭の時期が2038年から2030年に前倒しされた。天然ガスの過渡的な利用が認められたとはいえ、長期的なエネルギーの安定供給をどう確保するのか、加えてSPDの票田である石炭産業の労働者をどう説得するのか、という難題が待ち受ける。経済界の声を代表するドイツ産業連盟は早速、「ガス火力発電の建設をどう進めるのか不透明」「気候中立に向けた具体的なアプローチや手段が欠けている」と懸念を表明。野党に転じることになる同盟は「脱石炭の前倒しは、原発で発電するフランスや、石炭火力で発電するポーランドから(国境をまたぐ送電網を通じて)電力を買うことになる」と批判した。
規制強化や財政支出でエネルギー転換を急ぎたい緑の党に対し、経済界に近く、財務相ポストを握るFDPは、技術革新によるCO₂排出の削減を強く求めており、今後、曲折が予想される。
一方、これまで経済関係を優先しがちだった対中国外交、対ロシア外交についても、人権に敏感な緑の党が外相ポストを押さえたことで、連立内の足並みが乱れる可能性がある。
そもそも3党体制にならざるを得なかったのは、