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「野党共闘は失敗」に感じる違和感~立憲民主党が勝てなかった真の理由とは

野党共闘の成功した部分と失敗した部分の正しい評価・反省・修正が必要

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 10月31日に投開票が行われた第49回衆院選からひと月ほどが経ちました。この衆院選においては、自民党が276議席から261議席に減らしたものの、野党共闘路線を取った立憲民主党が選挙前の109議席から96議席に、共産党が12議席から10議席に減らし、野党共闘路線に背を向けた国民民主党が8議席から11議席に、日本維新の会が11議席から41議席に増やしました。

 これについて、「野党共闘によってリベラルになりすぎた(野党共闘はなぜ失敗したのか 惨敗の立憲民主、政治評論家が指摘した「維新との差」(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース)」「野党は怒りっぽい事が嫌われた(立憲民主党はなぜ若者の支持を得られなかったのか?(室橋祐貴) - 個人 - Yahoo!ニュース)」など、野党共闘を失敗と断ずる論調も目立ちますが、野党共闘の無所属候補として戦ったものとしての現場の感覚は大きく異なります。

 私自身が行った政治活動・選挙活動を一つの題材としながら、今回の衆院選と、野党共闘路線の効果について振り返りたいと思います。

立憲民主党の新代表に選出され、「がんばろう」とかけ声を掛ける泉健太氏(右から4人目)=2021年11月30日、東京都港区

野党共闘の効果は小選挙区と比例でまったく別

 今回の選挙については、前述の通り「野党共闘の失敗」と総括する論調が目立ちますが、2017年と2021年の衆院選を比べると、立憲民主党は実は議席を55から96に増やしており、特に小選挙区について言えば2017年には18の選挙区でしか勝てなかったものが、57もの選挙区において勝利していることが分かります(表1参照)。比例区の獲得議席を見ても、立憲民主党単独なら、実は37から39に微増しています。

表1

 2017年と2021年の立憲民主党の比例での得票率を比較しても、その差はほとんどありません(表2参照)。

表2
 もちろん、小選挙区での獲得議席数が増えたのは、国民民主党、社民党に所属した多くの議員が立憲民主党に合流した影響もあると思われるので、選挙直前と選挙後で立民・社民・無所属会派の議席数がどう変わったかをみてみましょう。結果は表3のようになります。

 これを見ると、確かに議席数は113から97に減っていますが、勝利した小選挙区は49から59に増えており、議席数の減少は、比例の議席が64から38に激減したためだと言えます。しかし、前述のとおり立憲民主党に限って言えば、比例の議席数は前回の衆院選と比べ微増しており、得票率も変わっていません。結局これは、比例で、他党からの合流で増加した議席数を維持するだけの議席を獲得できなかったことによるものと思われます。

表3
 つまり、今回の衆院選で立憲民主党は、「国民民主党、社民党からの合流で候補者が増えたことと、野党共闘の効果がプラスして小選挙区では獲得議席を増やしたが、比例では当然ながら1党のままで合流によるプラスはないうえ、野党共闘の効果もなかったために獲得議席が増えなかったことから、衆院選前に他党からの合流によって増加していた比例議席が減少したことで、全体の議席数が減少した」と考えられるのです。

 以上から、今回の衆院選は、野党共闘の効果が、小選挙区と比例でまったく別々の結果をもたらした選挙だったと言えるのであり、小選挙区と比例に分けて分析することが必要だと考えられます。以下、それぞれについて論じます。

小選挙区での野党共闘の評価~新潟5区を題材に

 最初に小選挙区についてですが、小選挙区は選挙区ごとに個別の事情があり、一般論で論じるのは困難です。そこで本稿では、冒頭で記した通り、私自身が新潟5区で行った政治活動・選挙活動を個別の題材として、今回の衆院選を振り返りたいと思います。

活動基盤の量~野党共闘がプラスに

 私見になりますが、私は、

選挙活動の効果(R)=活動基盤の量(M)×活動の長さ(L)×活動の質(Q)×活動の露出(E)

であると思っています。

 今までの選挙では、野党候補は、自民党候補に「活動基盤の量」(M)で圧倒されて、最初から勝負にならないことも多かったのですが、新潟5区では今回、無所属ながら保守と目される第3の候補(森民夫氏)が立候補して、保守分裂選挙の様相を呈しました。

 私は今回の選挙では、概ね3~6カ月に1回の割合で世論調査を実施したのですが、その結果を見る限り、保守の活動基盤の量(MC)はほぼ6対4で割れたものと思われます。これに対してリベラル側は野党共闘が成立し、リベラルの活動基盤の量(ML)はそのままの量を保てました。(グラフ1参照)

グラフ1

 これにより従来ならMC ≽ MLであるところが、MC<MLの状況となりました。選挙活動においてこのMの影響は絶大で、最初からMがあまりに離れていると、有権者から「勝ちうる候補」と思ってもらえず、鼻にもひっかけてもらえません。「Mを拮抗させる」と言うスタート地点に立つことができたという点だけでも、小選挙区における野党共闘の効果は極めて大きかったと思います。

 なお私は、選挙期間中堂々と共産党の街宣車に乗って演説しましたし、何度も共産党の地方議員の方と一緒に街頭演説を行いましたが、「共産党と共闘することの批判で支持者が離れる(活動の基盤の量(M)が減少する)」効果は、まったく感じませんでした。そのような批判は、もしかしてあったのかもしれませんが、直接有権者から言われることも、陣営に伝えられることもありませんでした。

 地域差や候補者による違いもあるのでしょうが、共産党との共闘批判による活動の基盤の量(M)が減少は、野党共闘によって活動の基盤の量(M)が分裂せず維持されることに比べて、ほとんど考えなくてよいレベルなのではないかと思います。

活動期間~調整に手間取ると短く

 次に活動の長さ(L)ですが、私は、新潟5区で事実上の野党共闘候補として決定した後2021年1月から事務所を開設して実質的な政治活動を開始し、公示後の選挙活動を合わせて、ほぼ10カ月間活動しました。

 これに対して自民党候補は、どういう事情かは分かりませんが、活動はほぼ2021年の9月に入ってからの2カ月に限られていたと言っても過言ではなかったと思います。第3の保守系無所属候補は出馬表明が5月でしたので、活動期間は6ヵ月ほどでした。先に示したグラフ1で、私が終始リードを保つ事が出来た理由として、他候補に活動の長さ(L)で負けなかったことは大きかったと思います。

 一般論として考えると、野党共闘は当然ながら候補者調整を要するので、Lが短くなる副作用があることは否めません。多くの選挙区では、現職の自民党議員がおり、通常は選挙の翌日から次の選挙を見据えた政治活動を始めていることを考えると、野党共闘路線を採用するなら、その副作用としてLが短くならないように、できる限り早く候補者調整を終えることが必要だと思われます。今回の衆院選で負けた統一候補にその意思があるなら、可能な限りその候補に活動を継続してもらうことも必要かもしれません。

活動の質~共通政策にみるプラス・マイナス

 活動の質(Q)は多様な概念ですが、「主要な争点として、何を重点的に訴えるか」は、その重要な要素の一つであると思います。

 私は前述の通り、3~6ヵ月に1回の頻度で世論調査を行っていましたが、この中で尋ねた「投票において重視する論点」の推移は、次のグラフ2の通りでした(関心が3%以下の論点はグラフに示していません。また、あえて聞いていない論点もあります)。

グラフ2

 2021年前半は有権者の関心は何と言っても新型コロナ対策であり、私も新型コロナ対策にフォーカスした街頭演説を行いました。街頭演説は聴衆の反応を直に感じられるものですが、この時期は、新型コロナ対策の演説に聴衆が引き込まれているのが実感でき、時には「何とかしてくれよ!」という掛け声をいただくこともありました。

 しかし、2021年の夏以降、徐々に感染者が落ち着きだすと、聴衆の反応が変わりだしました。調査上も新型コロナ対策への関心は徐々に低下し、2021年の8月以降は、経済対策が、有権者が投票において重視する争点のトップとなりました。これに応じて、演説の内容を新型コロナから経済対策に変更したところ、立ち止まって聞き入ってくれる層が微妙に変わりつつも、聴衆が演説に引き込まれている感覚が戻ってきました。

 なお、原発問題(原子力政策)は、私にとっても新潟5区の有権者にとっても極めて重要な問題ですが、今回の総選挙では、立候補した3候補が全員反対、ないしは慎重な姿勢であったこともあり、争点としての関心が高いとはいえないと世論調査から分かっていたので、私もほぼ常に演説の最後で触れはしましたが、訴えの中心として打ち出しはしませんでした。また、いわゆる「森・加計・桜」問題(政治倫理)についても、極めて重要な問題だとは思いますが、世論調査からは有権者の関心はさほど高くないと考えられたため、演説ではほとんど取り上げませんでした。

 私は、野党共闘で「共通政策」を作ったことは必要だったし、良かったと思うのですが、そこに過度に縛られると、上述のようにして「いま有権者がもっとも関心がある争点」を常時探り続け、機敏に対応するのが難しくなるという副作用がありえ、注意が必要だと思います。

 さらに、私の陣営では、可能な限り綺麗なビラ、ポスター、旗、街宣車を作り、街頭演説の場では可能な限り手際よく綺麗に旗を立てることに注力しました。この手の「技術的な活動の質(Q)」の要素は、基本的には野党共闘路線の採否とは無関係ですが、複数の政党・団体が選挙に携わる野党共闘では、意識していないと、関係者の調整にエネルギーを消費して、そういった所に注意が向かなくなってしまう副作用がありえます。

 技術的な活動の質(Q)の要素については、資金力のある自民党陣営が勝っている場合が少なくありませんし、私がかつて所属し、今回の選挙で躍進を遂げた日本維新の会が、この要素について優れた面があることは否めません。野党共闘路線をとる、とらないに関わらず、候補者・陣営は技術的な活動の質(Q)の要素にも、常に注意を払い続けることが必要だと思います。

衆院選前に「市民連合」と政策合意した、(左から)社民党の福島瑞穂党首、共産党の志位和夫委員長、立憲民主党の枝野幸男代表、れいわ新選組の山本太郎代表=2021年9月8日、国会内

活動の露出~SNS時代で重要な要素に

 活動の露出(E)は、いままではあまり語られない要素でしたが、マスコミへの露出のほかにも、自らがSNSで「露出」を作れるようになった昨今、非常に重要な要素になっていると思います。

 今回の総選挙で新潟5区は、元知事同士+元市長対決と言う世間の耳目を集める構図であった事に加え、私の妻が著名人ということもあり、何もしなくてもマスコミに再三取り上げられましたので、私の陣営ではまず、可能な限りマスコミに協力し、より多く、より良く露出するように努めました。

 また、選挙戦の途中で、街頭演説で「候補者、候補者の妻と写真を撮ることを希望する聴衆が多い」という事実に気が付いてからは、聴衆の要望に応えるためであると同時に、「撮影された写真は高い確率で、SNSで拡散され、何より活動の露出(E)を向上させることになる」と考え、住宅街で5~10分のゲリラ街宣を多数おこなうという従来の方法から、「多人数が集まりやすく、写真撮影の順番待ちで混乱の生じない、スーパーの駐車場横」で、「写真撮影を希望する全員が撮影できる余裕を持った時間間隔」での街頭演説に切り替えました。くわえて、政治活動や選挙活動の写真や動画に、可能な限り分かりやすい解説をつけてSNSで拡散する事にも注力しました。

 活動の露出(E)という要素は、野党共闘路線の採否とは基本的に無関係ですが、現代の選挙においては、各陣営がよくよく意識して対応すべきことだと思います。

小選挙区で勝つための三つの課題

 以上、私自身が戦った新潟5区の選挙を題材に、今回の衆院選を振り返ると、以下の通りとなります。

 第一に、活動基盤の量(M)で最初から不利に立たずにすんだという点で、野党共闘の効果は絶大でした。次回の参院選・衆院選において、より多くの小選挙区での勝利を積み重ねようとするのであれば、野党共闘は必須であると思います。

 第二に、野党共闘には、活動の時間(L)を短くしたり、野党共闘の主張に縛られて争点を機動的に変えられなくなったりすることや、調整すべき関係者が増えることなどで活動の質(Q)を下げかねないという短所も存在しました。しかし、活動基盤の量(M)で圧倒的な差をつけられた場合と異なり、これらの副作用は、それぞれの政党や陣営で対処できる問題であり、その努力が求められると思います。

 第三に、活動の露出(E)については、野党共闘路線の採否とは無関係ですが、マスコミへの露出に加えて、自ら露出を作ることができるSNSと言う手法が使えるようになっている現在、各政党・各陣営で意識的な対応が必要だと思われます。

比例区で立憲、共産が議席を減らした原因

 次に、野党共闘路線を採用した立憲民主党、共産党が議席を減らした比例区について、その原因を上記の

選挙活動の効果(R)=運動活動の量(M)×活動の長さ(L)×活動の質(Q)×活動の露出(E)

という枠組みを踏まえて考えたいと思います。

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