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ダイヤモンド・プリンセス号対応の失敗と日本の無責任体制~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第三部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑨

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

拡大停泊していた大黒ふ頭(後方)を離れた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号=2020年3月25日、横浜市鶴見区の横浜港、朝日新聞社ヘリから

 昨年2月、世界中の耳目を集めたダイヤモンド・プリンセス号の問題について、前回「ダイヤモンド・プリンセス号問題から浮かぶコロナ対応の欠陥~上昌広氏に聞く」に引き続いて書く。語るのは、臨床医でありながらコロナウイルスに関する世界最先端の医学・科学論文を渉猟する医療ガバナンス研究所理事長・上昌広氏だ。

 そもそも、ダイヤモンド・プリンセス号に対する対応はどうあるべきだったのか?

 上氏は、検疫の全権を委任された医師である検疫所長がまずクルーズ船に乗り込み、乗船客や乗員一人一人を診察したうえで、下船させるべきかどうか医療上の判断を下すことが必要だったと言う。そうすれば、下船させられた乗船客や乗員は、健康状態や疾患に応じて病院やホテルなどで適切な治療を受け、必要な検疫期間を落ち着いた環境で過ごすことができたはずだ。

 しかし、昨年2月、横浜港に停泊したダイヤモンド・プリンセス号の上で展開された現実は、そのような理性的な検疫とは対極にあるようなものだった。

 下船の判断について全権を委任されているはずの検疫所長は一切判断を下さず、その判断をしたのは、横浜港から離れた東京・霞が関にいた厚生労働省・医系技官トップ、そしてその報告を受けた当時の安倍晋三首相と菅義偉官房長官、加藤勝信厚労相、何人かの官邸官僚だった。医系技官を除けば医師でもない彼らが、ダイヤモンド・プリンセス号の乗船客、乗員を基本的に下船させず、船内で2週間の隔離・検疫をさせる決定を下したのである。

 船内で感染症が発生した場合は、まず下船させて、陸上で検疫させないと感染を抑えようがない。さらにクルーズ船の利用客には高齢者が多く、陸上でそれぞれの専門医療を受けなければ、健康状態を悪化させるケースが急速に増える。

 乗船客や乗員の健康状態を知らない安倍首相をはじめとするこの時の官邸官僚、加藤厚労相をトップとする厚労省・医系技官は、最悪の判断を下し、下船完了後の昨年4月15日までに712例のコロナウイルス感染者を出し、最低でも14人の死者をもたらした(国立感染症研究所報告による)。

 しかも、この判断の根底に存在していたのは、ダイヤモンド・プリンセス号のコロナウイルスは「日本国内」には入っておらず、「日本国内」はまだウイルスに侵されていないという虚構だった。実際にはこの時すでに、コロナウイルスは国内で感染の波を広げていたのである。

拡大インタビューにこたえる上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

DMATもFETPも役に立たず

――昨年2月にダイヤモンド・プリンセス号に入って船内の様子を観察した岩田健太郎・神戸大学教授の著書『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)によると、最初に災害派遣医療チーム(DMAT)が入って、それから厚労省の感染症危機管理人材育成プログラム(FETP)が入っている。しかし、FETPはすぐに船から出て、次に日本環境感染学会が入ってきます。だが、これもすぐに出て行ってしまいました。

 岩田さんの本によると、出て行った理由はどうも「感染リスクが非常に高いことが分かり、怖くてもう入れないと思った」ということらしいのですが、この経緯はあまりにずさんだったのではないでしょうか。

 私は2011年の東日本大震災の時に福島県・浜通りに入って医療活動をやったので、そういう事情はよくわかるんです。その後も持続的に活動を続けているのは教え子の坪倉正治君たちですが、交代で来るDMATとかの人たちは、何をやっているかわかっていないんです。

 仕組みがすでにできていて、ローテーションができる体制になっていれば、後から来ても何とかなるのですが、最初の危機対応というのは、一言で言えば腹が座っていて賢い人じゃないと無理なんです。結局、DMATも厚労省のFETPも役に立ちませんでした。

 福島の時は、ボランティアの医師と自衛隊の医師が最後まで面倒を見てくれました。ボランティアの医師は自分自身の意思でやっているので、最後までやり遂げるんです。これに対して、ローテーションで来る人はダメです。マスコミは褒(ほ)めますが、地元からは「むしろ来ないでほしい」と言われていることもあるくらいです。ダイヤモンド・プリンセス号でも、最後までやり通したのは自衛隊の医師でした。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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