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韓国で「過去最高」を更新するコロナ感染、混迷する対策の行方は?

伊東順子 フリーライター・翻訳業

過去最高の陽性者数

 韓国の疾病管理本部の発表によれば、12月7日の陽性者数は7175名、過去最高となった。韓国の1日の陽性者数は12月に入り初めて5000人を突破、1カ月前の11月初めまでは最高でも2000人前後だったので、この1カ月で陽性者が急増したのは明らかである。

 ただ同じく過去最高を更新し続けている欧州などに比べると、数字的には感染爆発といえるほどの規模ではないともいえる。例えばかつての「新型コロナ対策の優等生」ドイツの場合は、11月24日には7万9051人を記録したという。

ソウル市内の病院で2021年11月30日、防護服を着る医療スタッフら=東亜日報提供ソウル市内の病院で=2021年11月30日、東亜日報提供

 ドイツに限らず欧州の国々はどこも大変で、それに比べれば韓国はまだまだ大丈夫のようにも見える。実際のところ韓国政府の当局者は以前には「1日7000~1万人までは大丈夫」という発言を繰り返していた。その理由は「ワクチン接種目標が予定どおり完了したから」(10月23日に目標である国民の70%接種を達成)。ところが今はそんなことを言っている場合ではなくなった。陽性者数はともかく、重症者・死亡者が当初の想定以上に多くなってしまったからだ。

 陽性者の増加にともない重症者数も連日「過去最高」を更新しており、12月7日は「840人」と発表されている。死亡者数も11月22日以降は連日30人を超えており(12月3日は過去最高の70名)、その中には自宅待機中に亡くなった方もいる。病床逼迫をなんとかするために、韓国政府は「軽症者は原則として自宅治療」という方針転換を行ったが、症状が急変することもあり、こんどは在宅者への治療体制の構築が急務となっている。ソウル首都圏での重症患者の病床使用率は数字こそ80%台となっているが、病床があっても医療スタッフがいなければ回せない。そのため首都圏の患者を、まだ余裕がある他地域に移送することも行われている。

医療現場の悲鳴

ソウル駅近くで2021年11月30日、新型コロナウイルスの検査を待つ長い列ができた=東亜日報提供ソウル駅の近くで新型コロナウイルスの検査を待つ列=2021年11月30日、東亜日報提供

 「こんな重症患者がどうしてここまで運ばれてきたのかと……」(12月3日付「京郷新聞」、「病床増やすなら看護師も増やして」)

 政府は各病院に「コロナ用の病床を増やすように」という指示を出しているが、この記事にある現場の声は悲痛である。

 今、韓国の報道を見ていると、日本の夏のあの悪夢が蘇ってくる。オリンピックが終わった8月の中旬以降、全国で日に2万人を超える陽性者数が発表されていた。検査は全く足りず、たとえば当時の東京都では陽性率が20%を超えていた(ちなみに12月現在では0.3%ほど)。さらにピーク時には重症者数も全国で2000名以上となり、「救急車を呼んでも来ない」、「来ても行き場がない」、「待機中に亡くなる人もいる」……、連日の報道に人々は恐怖した。今も日本人の多くはあの時のトラウマがあるのだと思う。日々の陽性者数が全国で100人台になっても警戒を緩めない人は多い。

 あのさなか、8月中旬に私は日本から韓国に移動した。ちょうど韓国が「ワクチンパスポート」で入国時の隔離免除を開始したためそれを利用したのだが、その時の韓国の防疫体制はとてもスマートだった。規制こそ厳しかったが、少なくとも検査体制は盤石であり、医療につながれないという不安もなかった。正直、韓国に到着してホッとした。それが今はどうなってしまったのだろうか?

 「毎日毎日40人近くの人が亡くなるって、恐ろしいことです。私は年寄りなので、ものすごく怖いです。政府が日常生活への復帰を宣言したせいで、若者たちは街にあふれていますが、私は不安でたまりません」

 別件でインタビューした会社社長は

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