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「パンドラ文書」の背景にある国家の横暴〈下〉米国こそ巨大タックスヘイブン

塩原俊彦 高知大学准教授

「ローンドロマト」(Laundromat)

 この話が深刻なのは、過去に先進国で起きた事件への反省がまったくいかされていないことが暴露された点にある。

 先進国がダーティマネーの資金洗浄に加担してきた事実は、「ローンドロマト」(「コインランドリー」を意味している)と呼ばれるスキームが物語っている。これを解説した「ザ・ガーディアン」の2017年3月の記事によると、国連民主主義基金(UNDEF)からの資金提供で誕生した「組織犯罪・腐敗報道プロジェクト」(OCCRP)が命名した巨大なマネーロンダリングのスキームを意味している。OCCRP自体の説明によれば、OCCRPはこれまでに「Proxy Platform」、「Russian Laundromat」、「Azerbaijani Laundromat」という「三つのローンドロマト」(Troika Laundromat)を暴露してきたという。

 ロシアのローンドロマトは、2010年秋から2014年春にかけて、ロシアの政府関係者や内部関係者が数十億ドルを欧州や米国などに移動させたもので、全体像ははるかに巨大で、モルドバとラトビアの警察官は、少なくとも200億ドルの不正資金を追跡したが、「実際には800億ドルに上るのではないかと言われている」と、「ザ・ガーディアン」は指摘している。

 その後、明らかになったところでは、「96カ国、732の銀行に口座を持つ5140社が資金洗浄を行ったとされ、不正取引の件数は7万件以上と計算されている。そのうち、英国の銀行を経由した取引は1920件、金額にして約6億ポンド(7億3810万ドル)にのぼり、英国の銀行や英国に支店を持つ外国の銀行など、計17行の名前が捜査で明示されている」と、International Bankerが報道している。

拡大ロシアの「国家反腐敗センター」は機能しているようには見えない


 その手口はこうだ。まず、ロシアの犯罪者たちは、現実世界ではビジネス機能を持たない二つの会社を英国に設立する。Limited Liability Partnershipと呼ばれる法人形態を利用するのである。これは、有限責任だが、独立した法的所有者になることもできるし、契約を結ぶこともできる。何より、実際の所有権を隠すことができるため、資金洗浄に好都合なのだ。

 A社は債権者、B社は債務者として、A社にまとまったお金を返済することを約束する。しかし実際には、お金のやり取りはなく、企業が債務を保証し、さらにモルドバ人が加わるという仕組みになっている。これにより、モルドバの裁判所と腐敗したモルドバ人の裁判官が、B社がA社への架空の債務を不履行にした場合の解決に関与することができることになる。B社は、裁判所が承認した金融機関(Moldindconbank)の銀行口座に支払うことで、架空の債務を解決する。これにより、ロンダリングされた資金はロシアを離れ、前記のダミー会社を経由して世界中の口座に送られることになる。多くの場合、資金はラトビアの銀行、つまり欧州連合(EU)内の銀行に送られた後、世界中に流通することになる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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