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急速に衰えたバイデン政権~民主党は内輪もめしている場合ではない

政策失速・インフレ―中間選挙と大統領選に懸念/米の混乱は国際秩序の不安定化に

花田吉隆 元防衛大学校教授

拡大バイデン氏の大統領就任に合わせて、ワシントンのナショナル・モールには数多くの星条旗が立てられた=2021年1月21日(christianthiel.net/Shutterstock.com)
 それにしてもバイデン米大統領が馬脚を現すのも早かった。別に化けの皮がはがれたと皮肉っているのではない。急速に力が衰えてしまったと言っている。特に、就任直後の破竹の勢いが強い印象を与えただけに、坂道を転げ落ちるような支持率低下には驚かざるを得ない。一体何があったのか。バイデン大統領個人の問題もさることながら、民主党が抱える構造的問題が重要だ。

就任直後の破竹の勢いは何処へ

 バイデン氏の大統領就任から来月で1年、就任直後57%あった支持率はみるみる下がり、今や40%前半あたりをさまよう(Five Thirty Eightの12月10日付調査では支持率43%)。この時期にこれより支持率が低かったのはトランプ前大統領のみだ。

拡大G20サミットの記者会見を終え、会場を去るバイデン米大統領=2021年10月31日、ローマ(Alessia Pierdomenico/Shutterstock.jpg)
 就任直後100日間に見せた破竹の勢いは目覚ましかった。選挙期間中にブレーンと共に温めていた構想を一気に政策にまとめ上げ、バイデン大統領の強い意気込みが伝わってきた。

 「自分はトランプ氏と違う、同盟国を無視することはない、国内の中間層再生こそが重要で、弱者にも十分目配りする、政権は代わり米国は生まれ変わろうとしている、America is back(離れていた米国は同盟国の下に帰ってきた), Build Back Better(以前を超えて再生する)、自分はトランプ前大統領の4年間で失ったものを取り返す」と、バイデン氏は力強く訴えた。

傷ついた同盟関係を大きく改善―視線は対中関係に

拡大2年ぶりの対面開催となったG20サミットで、バイデン米大統領は欧州との連携強化に奔走。アフガニスタン問題などで傷ついた欧州からの信頼回復に努めた。特にフランスとは、AUKUS(米英豪の安全保障枠組み)の立ち上げを事前に知らせなかったことで悪化した関係の修復に腐心。写真は首脳会談を前に報道陣に手を振るバイデン米大統領とフランス仏大統領=2021年10月29日、ローマ
 実際その後の動きは目覚ましい。特に外交の成果が顕著だ。就任後、日米首脳会談、主要7か国首脳会議(G7サミット)、NATO首脳会議、EU首脳会議と、矢継ぎ早にスケジュールをこなしトランプ時代に傷ついた同盟関係を大きく改善させていった。

 その視線はただ一点、対中関係に集中する。21世紀の国際関係は米中の覇権競争だ。如何にその戦いを制するか。しかし、米国に以前のような圧倒的な力はない。同盟国とタッグを組んでこそ、中国に対峙していける。

 まずは米欧の連携強化であり、続いてクワッドによる日米豪印の協力体制だ。これに米英豪の新たな安全保障枠組みであるAUKUSを加える。一連の流れは、12月9、10日の米国主導による民主主義サミットにつながる。

拡大オンライン形式の「民主主義サミット」を主催したバイデン米大統領(左)とブリンケン国務長官。挨拶で各国指導者を歓迎した=2021年12月9日、ホワイトハウス(White House Photography/Shutterstock.com)

中国も対抗、米中対立構造が固定化

 しかし中国も黙っていない。11月の六中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議)では歴史決議を採択、習近平体制の一層の強化を図るとともに、一帯一路政策で途上国の取り込みに余念がない。12月3日、昆明からラオスを通る高速鉄道を開通させ、更にそれをタイまで延伸させて東南アジアに勢力を伸ばそうと狙う。

拡大バイデン政権発足後初の米中外交トップによる会談は、人権問題などをめぐり冒頭から互いを非難する異例の展開となり、両国の対立を色濃く映し出した。写真はブリンケン米国務長官(右から2人目)と中国の楊共産党政治局員(左から2人目)=2021年3月18日、アンカレジ
 かくて、この一年で米中対立構造がしっかり根を張ってしまった。経済こそ、米中は相互依存関係を維持するが、政治は完全にそうでなくなった。米国は、環境等一部分野を切り離し、米中の協力関係を模索するが見通しは不透明と言わざるを得ない。

ロシアも動く、ウクライナ侵攻の構え

拡大バイデン米大統領との会談後の記者会見でウクライナ問題などをめぐり欧米メディアとやりとりするロシアのプーチン大統領=2021年6月16日、ジュネーブ
 世界の耳目が米中に注がれる中、今度はロシアが不穏な動きを見せ始めた。ウクライナとの国境沿いに大軍を集中させ、来年早々にも侵攻の勢いだ。まるで、世界は米中だけでないというかの如き動きに、さすがの米欧も身構える。

 もし侵攻があれば欧米は経済制裁で対抗するというが、西側への揺さぶりに出たプーチン大統領にどれだけ効果的か分からない。

 米国は国際秩序維持に若干腰が引け気味だ。中露は、それを見逃さない。東の台湾に西のウクライナと、東西の火薬庫が不気味にくすぶる。


筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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