花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
政策失速・インフレ―中間選挙と大統領選に懸念/米の混乱は国際秩序の不安定化に
それにしてもバイデン米大統領が馬脚を現すのも早かった。別に化けの皮がはがれたと皮肉っているのではない。急速に力が衰えてしまったと言っている。特に、就任直後の破竹の勢いが強い印象を与えただけに、坂道を転げ落ちるような支持率低下には驚かざるを得ない。一体何があったのか。バイデン大統領個人の問題もさることながら、民主党が抱える構造的問題が重要だ。
バイデン氏の大統領就任から来月で1年、就任直後57%あった支持率はみるみる下がり、今や40%前半あたりをさまよう(Five Thirty Eightの12月10日付調査では支持率43%)。この時期にこれより支持率が低かったのはトランプ前大統領のみだ。
就任直後100日間に見せた破竹の勢いは目覚ましかった。選挙期間中にブレーンと共に温めていた構想を一気に政策にまとめ上げ、バイデン大統領の強い意気込みが伝わってきた。
「自分はトランプ氏と違う、同盟国を無視することはない、国内の中間層再生こそが重要で、弱者にも十分目配りする、政権は代わり米国は生まれ変わろうとしている、America is back(離れていた米国は同盟国の下に帰ってきた), Build Back Better(以前を超えて再生する)、自分はトランプ前大統領の4年間で失ったものを取り返す」と、バイデン氏は力強く訴えた。
その視線はただ一点、対中関係に集中する。21世紀の国際関係は米中の覇権競争だ。如何にその戦いを制するか。しかし、米国に以前のような圧倒的な力はない。同盟国とタッグを組んでこそ、中国に対峙していける。
まずは米欧の連携強化であり、続いてクワッドによる日米豪印の協力体制だ。これに米英豪の新たな安全保障枠組みであるAUKUSを加える。一連の流れは、12月9、10日の米国主導による民主主義サミットにつながる。
しかし中国も黙っていない。11月の六中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議)では歴史決議を採択、習近平体制の一層の強化を図るとともに、一帯一路政策で途上国の取り込みに余念がない。12月3日、昆明からラオスを通る高速鉄道を開通させ、更にそれをタイまで延伸させて東南アジアに勢力を伸ばそうと狙う。
世界の耳目が米中に注がれる中、今度はロシアが不穏な動きを見せ始めた。ウクライナとの国境沿いに大軍を集中させ、来年早々にも侵攻の勢いだ。まるで、世界は米中だけでないというかの如き動きに、さすがの米欧も身構える。
もし侵攻があれば欧米は経済制裁で対抗するというが、西側への揺さぶりに出たプーチン大統領にどれだけ効果的か分からない。
米国は国際秩序維持に若干腰が引け気味だ。中露は、それを見逃さない。東の台湾に西のウクライナと、東西の火薬庫が不気味にくすぶる。