花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
政策失速・インフレ―中間選挙と大統領選に懸念/米の混乱は国際秩序の不安定化に
一方、内政もバイデン大統領のスタートダッシュは目覚ましかった。中でも8年で2兆ドルのインフラ投資法案と10年で3.5兆ドルの子育て支援、気候変動対策等を内容とする歳出歳入法案(いずれも当初規模)は、その規模の大きさから人々は大きな期待を寄せた。
ところが就任直後に打ち上げた花火が華やかであればあるほど、後の寂しさも際立つ。アフガニスタン撤兵あたりからどうもバイデン政権の雲行きが怪しくなってきた。「撤兵に際しての混乱は一体何だ、バイデン氏は、外交のプロでなかったのか。」人々はバイデン氏が演じた不手際を目の当たりにし、大統領の資質を疑い始めた。
しかし、これはほんの序曲だった。ほどなくしてまさかのインフレが米国を襲う。
これまで世界は何年にもわたりインフレを忘れてきた。デフレこそがむしろ心配の種だ。ところが、コロナ後のリベンジ消費でまさかのインフレが欧米を襲う。脱酸素の機運も加わり、原油価格が急騰、それが経済の隅々にまで波及していく。しかし問題は原油に止まらない。余りの需要の急拡大に供給が追い付いていかない。サプライチェーンが目詰まりし、船荷満載の船が港の外で列をなして待機する始末だ。
かくて、ガソリンに食料品にと、日常生活のありとあらゆるものの価格が上がっていった。ようやく新型コロナで傷んだ経済が回復するかと思った矢先、今度は値上げラッシュだ。これでは国民はたまったものでない。
それでも、バイデン大統領肝いりの二つの法案が動き出していれば、米国経済も違った様相になっていたかもしれない。ところが、この二法案が待てど暮らせど議会を通る気配がない。国民は大統領の威勢のいい発表を聞き、今にも巨額資金が市中に流れ込み、景気が好転すると信じた。ところが実際は何のことはない、絵に描いた餅を見せられただけではないか。
法案は議会でもみくちゃになり、身内の民主党からも異論が続出する。バイデン氏と言えば、長年議会で活躍し、法案を通す術を知り尽くしていたはずなのに、事態打開に向けた妙手を繰り出すわけでもない。バイデン大統領は口ほどでもない、外交だけでなく、内政も不得手だ、と国民が考え出せば、大統領の支持率が下がっていくのも早い。
それでもトランプ氏ならまだ何とかしたかもしれない。何といっても、やってないことでもやったとして国民に平気で胸を張っていられた。この点、バイデン氏は違う。やったこともやったと言わないのがバイデン氏の奥ゆかしさだ。かくて、新型コロナ対策等、政権が誇れることは他に多くあるのに、国民の目がそちらの方に向いていかない。