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不安定で緊張高まるインド太平洋 関係を強化すべき欧州の国は?~仏大統領選を読む

2022年フランス大統領選はこう見ると面白い【1】防衛・安全保障の視点

永田公彦 Nagata Global Partners 代表パートナー

インド太平洋に常設軍を展開するフランス

 フランスはアメリカに次ぐ世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を世界的に保有している。つまり、漁業、天然資源の採掘、科学的調査が、他国に邪魔されず自由にできる広大な水域をもっているわけだ。

 ここで注目すべきは、そのうち93%がインド太平洋地域にあるという点だ。フランスは、南インド洋のマヨット島やレユニオン島から太平洋のニューカレドニアや仏領ポリネシアに至るまで、同地域で7つの海外県や属領(人口165万人を抱える)をもつが、その周辺海域にEEZは拡がっている。

 このように、フランスにとってインド太平洋地域は地政学的に重要なため、同地域に欧州諸国で唯一、常設軍を展開する。その数は5ヵ所にのぼり(南インド洋、ジブチ、アラブ首長国連邦、ニューカレドニア、仏領ポリネシア)、4隻のフリゲート艦を含む12隻の艦船、重要な陸軍部隊、多数の航空資産が同地域に配備され、8万3000人の軍人が駐留する。

拡大FoxPictures/shutterstock.com

多国間主義を基本に複数国と協力関係を強化

 フランスはここ10年、インド太平洋の戦略的重要性と体制を増強している。理由は、同地域の経済的な重要性が増しているにもかかわらず、地域内での脅威が増しているからだ。なかでも中国の覇権拡大と海洋進出、それに伴う中国と米国・豪州・インド等との対立激化は深刻だ。さらに、今月12日にフランスからの独立の是非を問う住民投票が実施されたたニューカレドニア等においては、中国の影響力が拡大している。

 これに対しフランスは、多国間主義を基本に複数国と協力関係を強化してきた。2019年、軍事省はインド太平洋における防衛戦略を採択。その柱として、軍の活動強化と地域各国とのパートナーシップ強化を掲げている。

 これに関連し、フロランス・パルリー軍務大臣は、現地メディアによるインタビューの中で、重要なパートナーとして4カ国を挙げている。まずはインド太平洋における歴史的な同盟国であるアメリカだ。両国の防衛および安全保障上の利益の一致、及び両国軍の間にある高レベルの相互運用性を理由として挙げている。これに加え、インド、オーストラリア、日本を、利益と価値観の共同体として挙げ、特に産業と海洋の分野で防衛協力を進めると発言している。

進化する日仏間のインド太平洋協力

拡大大統領関連のポスターが貼られる街角
 日仏二国間の戦略的パートナーシップは、1996年の「21世紀に向けての日仏協力20の措置」を皮切りに、国際社会の環境変化とともに進化してきた。その過程で、防衛・安全保障協力とインド太平洋における協力が重視されるようになってきた。

 2013年の共同声明では、安全保障・成長・イノベーション・文化を振興するための「特別なパートナーシップ」を発表。そこには防衛・安全保障と太平洋における協力が明記され、翌年1月から日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)が開始されている。

 さらに2019年には、この「特別なパートナーシップ」に新たな活力をもたせるための日仏協力のロードマップ(2019~23年)が示された。その第1項目には「インド太平洋における協力を強化する」、第2項目に「安全保障及び防衛分野における二国間の協力を進化させる」と記されている。これ以後(特に2021年度)、インド洋、太平洋、日本国内において、フランスの海軍・陸軍と日本の海上・陸上自衛隊が合同で行う2国間または多国間の共同軍事訓練が増加している(図1)。

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筆者

永田公彦

永田公彦(ながた・きみひこ) Nagata Global Partners 代表パートナー

フランスを拠点に、フォーチュン・グローバル500企業をはじめ数多くの欧州やアジア系企業に対し、国際経営・事業・組織コンサルティングをおこなう。西南学院大学(文学部)卒業後、82年JTBに入社、本社及び海外事業部門のマネジャーを経て、96年フランスに拠点を移す。MBA(EMリヨン)を取得後、リヨン商工会議所(アジア担当マネジャー)、欧州系調査コンサルティング会社などを経て2003年より現職。リヨン第二大学非常勤講師(アジア経済・経営修士コース 1998~2000年)、北九州市立大学特任教授(グローバル人材育成教育 2013~16年度)、パリ第9大学非常勤講師を歴任し、現在はフランス国立東洋言語文化学院で非常勤講師を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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