メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

米ロ首脳会談をどう解釈すべきか:ウクライナをロシアにとっての「台湾」とみなすと見えてくる真の構図

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年12月7日、米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はオンライン形式で約2時間会談した。バイデンは国境付近でのロシア軍の兵力増強で緊迫が高まっているウクライナ情勢について強い懸念を伝えたが、緊張緩和に向けた実質的な合意は得られないまま、両国は引き続き代表団同士の協議を続けていくことで一致したという(たとえば、朝日新聞の「米ロ首脳がウクライナ情勢を協議 緊張緩和へ実質的な合意得られず」を参照)。

素材ID 20211203TGAH0013A拡大米国のバイデン大統領
素材ID 20211001TGAH0071A拡大ロシアのプーチン大統領

 ただ、会談後の共同声明も記者会見もないままに、この会談に関するさまざまな臆測が伝えられている。そうした報道を読みながら強く感じるのは、的を射た分析が少ないことだ。その背後には、米国側から流されているディスインフォメーション(意図的で不正確な情報)に惑わされて、一知半解なまま報道する多くのマスメディアや「専門家」と称する人々がいるためだ(ディスインフォメーションについては、このサイトで公表した「情報操作 ディスインフォメーションの脅威」「安倍・トランプ政権が教えるディスインフォメーション対策の重要性」などを参照)。

 ここでは、ディスインフォメーションについて研究し、ウクライナについて、『ウクライナ・ゲート』や『ウクライナ2.0』といった本を書いてきた者として、この会談についてわかりやすく解説をしてみたい。

「ワシントン・ポスト」を使ったディスインフォメーション

 「ロシア、ウクライナに対して17万5000人の部隊がかかわる大規模な軍事攻撃を計画、米情報機関が警告」なる記事が2021年12月3日付の「ワシントン・ポスト電子版」に掲載された。書き出しはつぎのようになっている。

 「米政府関係者およびワシントン・ポストが入手した情報文書によると、ウクライナへのロシアの潜在的な侵攻の可能性をめぐってワシントンとモスクワとの間の緊張が高まるなか、米国の情報機関は、クレムリンが早ければ来年初頭に最大17万5000人の部隊がかかわる多方面攻撃を計画していることを明らかにした。」

 この記述に、多くの読者は警戒感をもたなければならない。情報源が明かされておらず、信用できないからだ。「ワシントン・ポスト」というマスメディアのもつ権威だけにすがって、もっともらしく書いているだけなのではないかという強い疑念がわく。

 信憑性(しんぴょうせい)を高めるために、記事では、「ロシアの計画では、早ければ2020年初頭にウクライナに対して軍事攻撃を行うことになっており、その規模は今年の春にロシアがウクライナ国境付近で行った抜き打ち演習の2倍にもなる」と、高度の慎重を要する情報を説明するために匿名を条件に政権当局者がのべたと説明されている。さらに、「この計画には、装甲、大砲、装備品をともなった、17万5000人と推定される100個の大隊戦術グループ(大隊、中隊、旅団を、その組織・人員構成に規定されていないユニットで補強することにより、戦闘〈訓練〉任務遂行期間中に一時的につくられる戦術的編成)の広範囲な移動がかかわっている」という当局者の引用がつづく。

 根拠薄弱との批判があったからなのか、「ワシントン・ポスト」は12月8日になって、「ウクライナ付近のロシア軍の動き。衛星画像が示すもの」という記事を掲載した。3月から4月、6月から8月、9月から10月に、ロシアの部隊が具体的にどのように移動したかが明らかにされている。ただし、これらの説明は現在、ウクライナ国境近くにいるとされる約7万の部隊について語っているにすぎない。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

塩原俊彦の記事

もっと見る