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【19】令和の日本に必要な2022年に注目すべき22の新技術

高校生に知って欲しい世界最先端の「現実」

塩原俊彦 高知大学准教授

 バブル景気末期の1989年に幕を開けた平成はすぐに低迷に転じ、アベノミクスによる「見せかけ」の株価上昇も日本経済を低迷という流れから脱却させることはできなかった(下図を参照)。いわゆる「失われた20年」こそ、平成を特徴づけている。ゆえに、The Economistの日本特集では、「昭和の日本はかつて未来を勝ち取る方法を提供し、平成の日本は未来を失う方法を示してくれた」と指摘されている。

 この「失われた20年」はいわば「ニッポン不全」の要因になっていると言えよう。だが、The Economistはさらに「令和の日本は、生き延びる方法を教えてくれるだろう」とつづけている。

 そこで、2022年を迎えるにあたり、今回は少しだけ明るい話を展開することにしよう。とくに、未来を担う若者に向けて、2022年に注目すべき新しいテクノロジーを紹介したいと思う。

「総合的な探究の時間」に向けて

 2022年4月から、全国の高校で「総合的な探究の時間」なる授業がスタートする。といっても、これまでの「総合的な学習の時間」という授業の名称を変更しただけに終わるという事態も十分に予想される。

 ここでは、この授業を生徒にとって実りあるものにするために、一つの提案をしたい。それは、「未来のテクノロジーからいまを考える」という視角をもつことの大切さをこの授業で実感できるようにしてほしいということだ。

 実は、この「論座」において、筆者はこうした視線からの記事を書くように心がけているつもりだ。テクノロジーの急速な「進化」によって時代が大きく変わろうとしているからこそ、自分の書く論考が読者に少し先の未来から現在を考え、それを自分の将来へとフィードバックさせるような機会になってほしいと願っている。それと同じように、「総合的な探究の時間」でも、未来から現在を照射する視点を大切にしてほしいと思う。

 そのために、新しい22のテクノロジーを示したい。このなかから、生徒が興味をもつテクノロジーを選んでもらい、そのテクノロジーが開発された「物語」に注目したり、その現在の世界中での開発状況を調べたり、今後の見通しを予測したりしてほしい。そして、そのテクノロジーの引き起こす問題点や、国家規制のあり方などについても考えてみることを提案したい。もちろん、自分の将来展望にもつなげてほしい。

 といっても、紹介するテクノロジーは筆者の独断によるものではない。The Economistの別冊、The World Ahead 2022に掲載されているものである。各項目について、筆者なりの解説を加えてみた。

1.ソーラー・ジオエンジニアリング

 「メタバース」の生みの親、SF界の巨匠、ニール・スティーヴンスンの新著、Termination Shockにおいて、テキサスの石油王が世界最大の銃を作り、硫黄を大気中に発射して地球を冷やすという話が紹介されている(メタバースについては、拙稿「『メタバース』考:インターネット後の世界からいまを見つめる」を参照)。これこそ、「ソーラー・ジオエンジニアリング」と呼ばれる新しいテクノロジーである。「地球工学」と呼ばれる分野で、他の惑星において地球型の生命体が居住できるようにする仮想的なプロセス、すなわち、大胆な発想の「テラフォーミング」を、地球自体に適用するところにジオエンジニアリングのおもしろさがあると言えるかもしれない。

 しかし、それは決して荒唐無稽ではない。大気化学者で、2006年にノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン著「成層圏の硫黄注入によるアルベド向上」という、学術誌Climate Changeに掲載された論文をぜひ読んでほしい(なお、「アルベド」とは、天体の外部からの入射光に対する、反射光の比を意味している)。彼はつぎのように書いている。

 「ゆえに、最善の解決策ではないが、太陽光を反射するエアロゾルを成層圏に追加することで地球のアルベドを人工的に高め、それによって気候を冷却することの有用性が、先ほどの行き詰まり状況を打開し、さらに増加する二酸化炭素(CO₂)排出による気候強制力に対抗する方法として、再び検討され、議論されるかもしれない。これは、気球や砲で成層圏に運ばれた二硫黄(S₂)や硫化水素(H₂S)を燃焼させて二酸化硫黄(SO₂)を生成することで実現できる。」

 さらに、つぎのようにつづけている。

 「この現象は、1991年6月のピナツボ火山の噴火で観測されており、当初はSO₂として約10テラグラム(1000万トン)の硫黄が熱帯成層圏に放出された。この場合、粒子によって宇宙空間への太陽放射の反射が促進され、噴火後の1年間で平均0.5℃地表が冷やされた。硫酸エアロゾルによる気候冷却は対流圏でも発生するが、反射性粒子を成層圏に配置する大きな利点は、対流圏では1週間程度であるのに対し、成層圏では約1〜2年という長い滞留時間になる。したがって、対流圏の硫酸エアロゾルと同様の冷却効果を得るために成層圏で必要となる硫黄の量は、数%とはるかに少なくて済む。これにより、地上付近の大気汚染を軽減し、生態系の状態を改善し、それに伴う気候の温暖化を抑えることが可能になる。アルベド修正法の最大の問題点は、大きな副作用がなく環境上、安全な方法であるかどうかである。」

 The Economistによれば、「2022年、ハーバード大学のグループは、遅れていた成層圏制御摂動実験(SCoPEx)と呼ばれる実験を行いたいと考えている」という。この実験では、成層圏に気球を打ち上げ、2キログラムの物質(おそらく炭酸カルシウム)を放出して、太陽エネルギーの散逸、反応、散乱の様子を測定することを目的としている。2021年6月に予定されていたものだが、ハーバード大学のグループは、道徳的、政治的な影響を検討するために、独立した諮問委員会を設立、「実験が行われるかどうかにかかわらず、論争が予想される」という。

 いずれにしても、こうしたソーラー・ジオエンジニアリングは未来を生きる若者にとって、明るい希望となりうるものであり、こうした最先端技術に目を向けてほしい。

2.ヒートポンプ

 世界のエネルギー消費量の約4分の1は冬の暖房が占めている。そのほとんどは、石炭、ガス、石油を燃やしている。気候変動に対処するためには、この状況を変える必要があり、もっとも有望な方法として、ヒートポンプの利用が考えられている。

 ヒートポンプは、空間から熱をくみ上げて冷やす代わりに、外から熱を取り込んで空間を暖める。ヒートポンプは、既存の熱を移動させるだけなので、効率がよく、電気1キロワットの消費に対して3キロワットの熱を供給できるので、電気式ラジエーターよりもランニングコストが安く済む。さらに、ヒートポンプを逆回転させると、暖房ではなく冷房になる。

 The Economistによれば、サンフランシスコに本社を置くグラディエント社が薄型でエアコンと同様に窓に取りつけることができる製品を2022年に発売予定だという。

3.水素飛行機

 水素については、拙稿「脱炭素社会の実現のカギを握る水素:世界の覇権争奪にも影響/上」において、「ソ連時代、世界初の水素エンジン搭載機(トゥポレフ155型機)を誕生させた経験があるだけに、ロシアが「水素元年」以降、急浮上する可能性がないわけではない。2020年9月には、ロシアの無人航空機の開発者が世界で初めて水素燃料電池を無人機に搭載し、飛行試験の準備が整ったとの記事がロシア語雑誌『エクスペルト』に掲載された」と書いておいた。

 いよいよ、2022年にはこの水素燃料電池搭載の飛行機実験が本格化する。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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