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バッテリーをめぐる世界の暗闘〈下〉

電極の素材・使用済み電池――資源争奪戦も激化

塩原俊彦 高知大学准教授

リチウム価格が上昇中

 〈上〉で概説した電池開発の競争以外にも、リチウムイオン電池(LIB)の正極材の主原料である、リチウム、コバルト、ニッケルの争奪戦が激化している。アメリカ地質調査所(USGS)による2020年の生産量予測は、オーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの順になっている(図1)。他方、埋蔵量はチリ、オーストラリア、アルゼンチン、中国の順となっている。

図1拡大図1 世界のリチウム鉱山の生産と埋蔵量量(単位トン)
(出所)https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2021/mcs2021-lithium.pdf

 ただ、これらの数値は政府などの情報源からの新しい情報に基づいて修正されたもので、USGSの情報によると、埋蔵量の多いのは、ボリビアの2100万トン、アルゼンチンの1930万トン、チリの960万トン、米国の790万トン、オーストラリアの640万トンなどとみられている。政情不安などから、これまでリチウム生産がほとんどなかったボリビアだが、今後、徐々に増加が見込まれている(図2)。

図2拡大図2 リチウムの埋蔵量(上図)と上位3カ国の生産実績および予測
(出所)https://www.economist.com/the-americas/how-bolivian-lithium-could-help-fight-climate-change/21806677

 「日経産業新聞」に「EV電池、価格上昇の足音 ドイツがリチウム産地に」という記事が最近、掲載された。それによると、業界は価格が高く発火の原因になりやすく、採掘の児童労働も問題になっていたコバルトの使用を減らすことに取り組んできた。その結果、正極にリチウム(Li)・鉄(Fe)・リン(P)を材料にした「リン酸鉄系」のリチウムイオン電池(LFP電池)の需要が高まり、リチウムの重要性が増したという。

 リチウム価格の上昇が継続しており、リチウム確保が大きな課題となっている。中国の電池大手、CATL(寧徳時代新能源科技)は2021年10月、カナダのミレニアル・リチウムを総額3億7700万カナダドル(2億9870万米ドル)で買収する計画を発表した。カナダの会社はボリビアとチリを含む南米のいわゆる「リチウムトライアングル」の一角であるアルゼンチンで二つのリチウム採掘プロジェクトを保有している。CATLは、アルゼンチンのリチウム企業であるネオ・リチウムのほか、グリーンランドのノース・アメリカン・ニッケルやオーストラリアのピルバラ・ミネラルズの株式を取得しており、今回の買収はそれに続くものとなるはずだった。

 ところが、11月になって、ミレニアル・リチウムとリチウム・アメリカズ(本拠地はカナダ)は、後者が前者の全株を総額約4億ドルで取得するための最終購入契約を締結したことを共同で発表した。土壇場で中国側が一敗地に塗れたことになる。

 なお、拙稿「『タリバン2.0』がおよぼす地政学的影響」で指摘したように、中国は「リチウムのサウジアラビア」と呼ばれるアフガニスタンでもリチウムを獲得しようとしている。

 他方、リチウム製法をめぐっても開発が進んでいる。リチウムを得るには、主としてリチウム鉱石を採掘・精製する方法と、塩湖からくみ上げた塩水である鹹水(かん水)を天日干してリチウムを抽出する方法がある。たとえば、「塩水からのリチウム抽出は、チリ、ボリビア、アルゼンチンで古くから行われており、2年近くかけて太陽の光を利用して広大な池の水を蒸発させている」と「ニューヨーク・タイムズ」は報じている。

素材ID 20180116NHOD0053A】拡大アルゼンチン北西部オラロス塩湖周辺のリチウム生産施設。塩湖からくみ上げた水を乾かした後、精製する(豪州・オロコブレ社提供、2017年2月撮影) 

 注目されているのは、こうした古い方法ではなく、地熱を利用して塩水からリチウムを抽出方法だ。米国では、カリフォルニア州最大の湖であるソルトン海の地下の塩水からリチウムを抽出する計画があるほか、アーカンソー州、ネバダ州、ノースダコタ州など、米国内の少なくとも1カ所で、塩水からリチウムを抽出する事業が期待されていると同じNYTは伝えている。

 ヨーロッパに目を転じると、地下水の流量が豊富なライン川を利用し、地熱と組み合わせて鹹水からリチウムを製造するためのバルカン・エナジー・リソーシズという会社がすでに設立されている。2021年9月、ドイツ西部ランダウの地熱発電所内にある実証工場で実際にくみ上げた塩水からバッテリー品質のリチウムを抽出することに成功したという。2024年から生産を始め、2025年にも年間4万トンの水酸化リチウムを生産する計画だ。実現すればEV100万台分に相当するリチウムが確保できるという。ほかにも、2021年7月、英豪リオ・ティントは、セルビア西部のジャダル渓谷に24億ドルを投じて、欧州最大、世界最大級のリチウム鉱山を建設すると発表した(資料を参照)。

 ロシア国営会社、ロスアトムの海外でのウラン採掘資産を所有する、ウラニウム・ワン・ホールディングは2021年11月29日、カナダのアルファ・リチウム・コーポレーション(ALC)と、アルゼンチンのリチウム鉱床の開発を目的とした合弁会社を設立することに合意したと発表した(中国など、ほかの国における個別企業の取り組みについては、「次世代電池、パナやCATL競う リサイクルも」という記事が参考になる)。

 日本では、2020年に弘前大学が電気透析という手法でリチウムを海水から速く効率よく取り出す方法を開発したことが知られている(資料を参照)。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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