山下裕貴(やましたひろたか) 元陸将、千葉科学大学客員教授
1956年宮崎県生まれ。1979年陸上自衛隊入隊、自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などを歴任し2015年に退官。現在は千葉科学大学客員教授、日本文理大学客員教授。著書に『オペレーション雷撃』(文藝春秋)など。アメリカ合衆国勲功勲章・功績勲章を受章。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
台湾有事のシミュレーション
ハイブリッド戦という新たな"戦場"(上)非軍事手段をフル活用する侵略手法から続く
前回では、ロシアがクリミア併合で行った「ハイブリット戦」について詳しく解説した。前回でも述べたように、「ハイブリッド戦」とは「破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、外形上、『武力行使』とは明確には認定しがたい方法で侵略を行うこと」である。
現在、安全保障関係者の間で議論されている中国が台湾に侵攻し、日本が巻き込まれるシナリオには、台湾を支援する米海軍を後方支援する重要影響事態や攻撃された米海軍艦艇を防護する存立危機事態の場面など多数ある。今回は中国が行うであろう「ハイブリット戦」について筆者のシミュレーションを前提としてシナリオ検証してみたい。
それは、「中国と台湾の緊張が高まり、沖縄県では反戦・反基地運動が激化、日本からの分離独立を標榜する過激なグループも現れる状況になった。中国が台湾を武力統一するため侵攻準備を開始、これに連動して南西諸島において中国軍による限定作戦が行われる」という内容である。
中国が台湾を武力統一する際、日本の南西諸島に対して中国軍の限定作戦がなぜ必要になるかについてであるが、台湾の中央には険しい山脈が南北に走っており、台湾全島を占領するためには台湾東側から上陸する必要がある。そうなると台湾と南西諸島の間を中国軍の揚陸艦隊が通過することになり、日本から側背を狙われる形になり、軍事的に考察すれば、何らかの安全確保の処置(作戦)が必要になると考えるのが妥当だからである。