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ハイブリッド戦という新たな"戦場"(下)日本が巻き込まれるシナリオの検討

台湾有事のシミュレーション

山下裕貴 元陸将、千葉科学大学客員教授

ハイブリッド戦という新たな"戦場"(上)非軍事手段をフル活用する侵略手法から続く

 前回では、ロシアがクリミア併合で行った「ハイブリット戦」について詳しく解説した。前回でも述べたように、「ハイブリッド戦」とは「破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、外形上、『武力行使』とは明確には認定しがたい方法で侵略を行うこと」である。

台湾有事に日本が巻き込まれるシミュレーション

 現在、安全保障関係者の間で議論されている中国が台湾に侵攻し、日本が巻き込まれるシナリオには、台湾を支援する米海軍を後方支援する重要影響事態や攻撃された米海軍艦艇を防護する存立危機事態の場面など多数ある。今回は中国が行うであろう「ハイブリット戦」について筆者のシミュレーションを前提としてシナリオ検証してみたい。

海上軍事演習の閲兵後、演説する台湾の蔡英文総統(2018年4月撮影)海上軍事演習の閲兵後、演説する台湾の蔡英文総統(2018年4月撮影)

 それは、「中国と台湾の緊張が高まり、沖縄県では反戦・反基地運動が激化、日本からの分離独立を標榜する過激なグループも現れる状況になった。中国が台湾を武力統一するため侵攻準備を開始、これに連動して南西諸島において中国軍による限定作戦が行われる」という内容である。

 中国が台湾を武力統一する際、日本の南西諸島に対して中国軍の限定作戦がなぜ必要になるかについてであるが、台湾の中央には険しい山脈が南北に走っており、台湾全島を占領するためには台湾東側から上陸する必要がある。そうなると台湾と南西諸島の間を中国軍の揚陸艦隊が通過することになり、日本から側背を狙われる形になり、軍事的に考察すれば、何らかの安全確保の処置(作戦)が必要になると考えるのが妥当だからである。

ネット・電話の不通、停電、警察無線の妨害

 中国が日本に対して「ハイブリッド戦」を行った場合、具体的にどうなるのか。以下、ロシアのクリミア併合のケースを当てはめて検証してみたい。

Andy Gin/shutterstock.comAndy Gin/shutterstock.com

 二〇××年○月、沖縄県S島市の警察署には、早朝から異変を知らせる連絡が多数寄せられていた。市内全域の銀行ATMが故障し、パソコンがインターネットに接続できないなどである。午後には、市全域に停電と電話回線の不通が発生した。同じ頃、空港派出所に管制装置異常による航空機の離発着停止の連絡が入った。警察官が無線により本署に連絡を取ろうとしたが雑音が多く交信ができない。

 戸惑っている内に、警察用携帯電話に「空港警備の警察官・警備警戒中のパトカーはS島空港北側の管理地域に直ちに集合せよ」との一斉指令メールが入った。三十分ほどで数十人の警察官と車両が集合し、本署からの指示を待つ態勢となった。その時、大音響とともに爆発が発生、多くの警察官が死傷し車両も破壊された。

 混乱する空港の滑走路に見慣れぬ航空機が着陸した。機体には会社マークなどなく、民間機であることしか分からない。機体のドアが開き、中から出て来たのは濃緑色の戦闘服に目出し帽、ヘルメットに防弾ベスト・自動小銃などで武装した一団であった。空港職員がリーダーらしき人物に確認を求めたが、彼は流暢な日本語で「我々は琉球独立団だ」と名乗った。

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