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「単一民族神話」にしがみつき〈純ジャパ〉自画像を描き変えられない私たち

武蔵野市の住民投票条例騒動と真鍋淑郎さん報道、ウィシュマさん事件が露出させたもの

石川智也 朝日新聞記者

外国人が1票を投じた住民投票はすでに200件以上

 前置きが長くなってしまった。 

 本題に入れば、この「独り歩き」は、「成立すれば全国3例目となる国籍を問わない制度案」(毎日新聞)といったミスリーティングな報道も一因だった。

 上述のように住民投票は条例によるものだけで400件以上実施されているが、うち外国籍住民に投票を認めたケースはすでに200件を超えているという事実がある。

 「自動実施型」常設条例を定めた94自治体(市町村合併などにより現在は78自治体)のうち53自治体(同42自治体)も、外国籍住民に投票権を認めている。武蔵野市の条例案はなんら珍しくはない。

滋賀県米原町で2002年3月31日、外国人の投票権を認めた住民投票が実施された。条例に基づくものでは国内では初めてだった拡大滋賀県米原町で2002年3月31日、外国人の投票権を認めた住民投票が実施された。条例に基づくものでは国内では初めてだった
 「3例目」とは、外国人の投票資格要件を「住民登録3カ月以上」のみにしたケースとしては、という意味だが、要件を「半年」とするか「1年」とするか「3年」にするか、あるいは「日本での在留期間○年以上」「永住者」などのいずれにするかは任意である。少なくとも、期間の相対差に積極的意味を見いだす必要性を私は感じない。

 外国籍市民の投票権を認める以上、日本国籍市民との扱いに差をつけ在留期間等の特別な要件を設けることには明確な合理性がない、と武蔵野市も説明している。つまり期間の相対差は本質的問題ではない、と言っているわけだ。

 にもかかわらず、ほぼ前例のない、特異な条例かのようなイメージが流布してしまった。これは市の発信の仕方にも稚拙さがあったことは否めないが。

 もっとも、「3カ月」は短すぎる、もっと地域との関わりを深めた後でよいではないか、との理由で反対した市民もいたし、その他、「拙速」「市民への周知不足」、あるいは前述のような直接民主制への不審、さらには「外国人参政権に道を開く」など、慎重論・反対論の理由は様々だった。

 この最後の「参政権」について言えば、住民投票資格付与が選挙権付与につながるとの懸念にとどまらず、住民投票じたいが広義の参政権であると捉えて反対する者も少なからずいた。

 日本国憲法は参政権を日本国民固有の権利としているが、最高裁は1995年、傍論ながら「自治体と特段に緊密な関係をもつ人」に地方参政権を与えることを憲法は禁じておらず、立法政策の問題だと述べている(この最高裁判決をめぐっては今回、朝日読売の社説が自説補強のために対極とも言える解釈をしている)。

 私自身は、住民投票はおろか、生活と密接したコミュニティーである基礎自治体では外国籍住民にも参政権を積極的に認めるべきだと考えている。だから今回の条例反対派には与しない。

 ただ、厳密な意味において政治共同体への参画を保障する参政権(つまり選挙権と被選挙権)に「国籍」という要件を課すべきだの主張には、一定の合理性があると考えている(日本の国籍法が多重国籍を認めず血統主義である点と、特別永住者の問題は後述する)。

 マーストリヒト条約以前の欧州各国も、外国籍住民への参政権付与は互恵・相互主義が基本だった。

 情緒的な博愛主義からいったん離れ冷静に観察すれば、今回、条例案に反対したことをもって、その人たち全てを、外国人との共存や多様性や寛容に背を向けているなどと断じるのは、粗雑なレッテル貼りである。

 反対者へのカウンターとして、「排外主義」「ヘイト」「レイシスト」という用語を、厳密さを欠いたかたちで使うべきでもない。定義が曖昧なワーディングがインフレを起こせば真のヘイトやレイシズムへの批判が相対化されてしまうし、レッテル貼りは自分に跳ね返ってくる。

 年単位の在留期間を条件とすべきだとの意見も含め、外国籍住民の政治参加をどういう要件でどのレベルまで認めるかは、まさにその地域の住民が、外野の声をいなして決めるべきことで、それこそが住民自治である。

 しかしながら、こうした物言いはあまりに観念的に過ぎ、現実における非対称性を無視している、との批判を受けるかもかもしれない。そうは言ってもこの社会はあまりにも外国人の「排除」を前提にしたシステムがまかり通っている、という現実を出発点にすれば、確かに、また別の風景が見えてくる。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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