花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
睨みを利かせていた者の力が衰え、狼藉者が幅を利かせる世界/国際社会の選択肢は?
ロシアがウクライナ国境沿いに軍を集結させつつある。その数、約10万人。今後17万5千人まで増強の可能性がある(12月27日、1万人ほどを撤収)。年明け早々にも、ウクライナへの侵攻が行われるだろうとの見方が現実味を帯びる。プーチン大統領は米国の力の衰えによるスキを狙う。戦後、国際社会は、米国の力を重しとして秩序を維持してきた。その構図が今、根底から覆されようとしている。では、国際社会に如何なる選択肢があるというのか。
7日、バイデン大統領は、プーチン大統領とのオンラインによる首脳協議でロシアの行動自制を求めたが、議論は平行線のまま終わった。プーチン大統領は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)不加盟の保証、ウクライナ領内の攻撃兵器配備禁止を要求するが、いずれも米国としてのめる話ではない。バイデン大統領は、仮に侵攻が行われれば、米欧は協調して対ロ経済制裁に踏み切ると警告した。
経済制裁の中身ははっきりしないが、その最も厳しいものは、独露間の天然ガス輸送パイプライン、ノルドストリーム2の稼働停止と世界の銀行送金システム運営機関、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア締め出しだ。ロシアは石油、天然ガス輸出が主要な収入源であり、輸出が稼働停止に追い込まれれば収入は大きく減少せざるを得ないし、送金システムから締め出されれば、ロシア経済は大きな痛手を被る。しかし、プーチン大統領が自制要求に応じるか否か、それは定かでない。
そもそも、プーチン大統領は何を狙っているのか。
プーチン大統領は大国ロシアの復興という野望を抱くが、その心情の奥底にあるのは、西側に裏切られたとの強烈な不信感だ。ロシア国民全体がその思いを抱く。
ドイツ再統一の時、西側はソ連にNATO不拡大を口頭で約束した、とされる。しかし現実にはこの約束が守られることはなかった。NATOは旧ワルシャワ条約機構の地域に拡大を繰り返し、その手は今やウクライナに延びる。一方、ウクライナではNATO加盟の世論が勢いを増しつつある。
ウクライナのNATO加盟だけはプーチン大統領としてどうやってものめる話ではない。プーチン大統領によれば、ロシアとウクライナは民族を同じくする「同胞」であり、本来、一体でなければならないものだ。ウクライナを他地域と同列に論じるわけにはいかず、これだけはNATOに渡すわけにはいかない。
但し、今回、プーチン大統領が狙っているのはウクライナのNATO加盟阻止か、あるいは、もう一歩進んでウクライナ併合まで意図しているのか、大統領の真意は未だ不明だ。