睨みを利かせていた者の力が衰え、狼藉者が幅を利かせる世界/国際社会の選択肢は?
2021年12月30日
7日、バイデン大統領は、プーチン大統領とのオンラインによる首脳協議でロシアの行動自制を求めたが、議論は平行線のまま終わった。プーチン大統領は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)不加盟の保証、ウクライナ領内の攻撃兵器配備禁止を要求するが、いずれも米国としてのめる話ではない。バイデン大統領は、仮に侵攻が行われれば、米欧は協調して対ロ経済制裁に踏み切ると警告した。
プーチン大統領は大国ロシアの復興という野望を抱くが、その心情の奥底にあるのは、西側に裏切られたとの強烈な不信感だ。ロシア国民全体がその思いを抱く。
ドイツ再統一の時、西側はソ連にNATO不拡大を口頭で約束した、とされる。しかし現実にはこの約束が守られることはなかった。NATOは旧ワルシャワ条約機構の地域に拡大を繰り返し、その手は今やウクライナに延びる。一方、ウクライナではNATO加盟の世論が勢いを増しつつある。
但し、今回、プーチン大統領が狙っているのはウクライナのNATO加盟阻止か、あるいは、もう一歩進んでウクライナ併合まで意図しているのか、大統領の真意は未だ不明だ。
いずれにせよ、プーチン大統領が、米国の国際秩序に向けた関心低下のスキを突いていることは疑いない。現在の秩序に挑戦すれば手痛いしっぺ返しを受けることが確実なら、プーチン大統領とて敢えて動こうとはしない。そうでなく、米国は動かないだろうとの読みがある。だからこそプーチン氏が動き始めた。
実際、米国のこれまでの動きはそれを裏付ける。2013年のシリア内戦に際し、当時のオバマ大統領は、シリアがレッドラインを超えることは許さないと明言したが、その後、シリアが化学兵器使用に踏み切った時、米国はこれに武力制裁を加えようとはしなかった。
2014年、ロシアがクリミアを併合した時、米国はこれに力で対抗しようとはせず、欧州と協調で経済制裁を行うに止まった。しかし、経済制裁が、ロシアにどれほどの痛手になったか。余り効果があったとは思われない。
米国社会は今、内向きだ。国際社会の問題より、格差や分断、中間層の没落といった米国内の問題こそが重要とする。米議会も、ハト派議員はそういう見方だし、タカ派は国力を対中国に集中せよとの姿勢だ。先般のアフガニスタン撤退は多くの混乱を招いたが、撤退自体は、米国民の多くが支持する。長引くイラク、アフガニスタン駐留に米国民はほとほと嫌気がさしていた。
しかし、こういう米国の腰が引けた状況を世界は見逃さない。ロシア、中国、イラン。ロシアの動きに対し、国際社会がどう反応するか、それを今、中国やイランはじっと見ている。
戦後、国際秩序は集団安全保障として構想された。違反者が出た時、それを処罰するのは国連の役割とした。だから、加盟国は武力不行使を受入れた。構想は明文化され国連憲章第7章がつくられた。第7章は国連の強制行動を規定する。
国際社会は代わって、地域的安全保障、つまり、NATO等にその安全保障を依存することになる。これは、簡単にいえば、米国の力の行使により、国際秩序を維持していこうというものだ。違反者が出れば米国が制裁を加える。
例えば、ここに一つの村があるとして、村はどうやって村内の秩序を維持するか。違反者が出て、誰も処罰する者がいなければ違反者はやりたい放題だ。通常、警察が取り締まりに目を光らせる。しかし村に警察はない。そこで、村は、腕っ節の強い一人の男に目を付け、警察官の役割を託す。かくして、(西側という)村の秩序は維持され、これまで75年以上にわたり村は繁栄を享受してきた。
ところが、ここにきて腕っ節の強い男も寄る年波に勝てなくなってきた。自分だけに秩序維持役を押し付けられても困る、自分は、自分の体(国内問題)のことも心配しなければならない。違反者に睨みを利かせる者の腰が引け始めたのを違反者が見逃すはずがない。この時とばかりに狼藉を働き始めた。
狼藉を働く方にもそれなりの言い分がある。
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