西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
不公正と説明不足だらけの2年間を超克しコロナ禍の経験を理性的に活かせるか
新型コロナウイルスの世界的感染が始まって2年。感染力の強いオミクロン株が各国で広がり、コロナ禍は一体いつ終息するのか、確たる見通しは立っていません。命にかかわるリスクにさらされ続けるなか、政治や社会はどう変わったのか。これまで「論座」にコロナについての論考を幾度も寄せていただいている国政政治学者の三浦瑠麗さんと社会学者の西田亮介さんに、あらためて寄稿をお願いしました。お二人の対談動画と合わせて、ぜひお読みください。(論座編集部)
今年1年の政治とメディア、社会を振り返るとき、今年もまた、新型コロナ抜きというわけにはいかない。歴代最長政権となった安倍晋三政権の継承を掲げた菅義偉政権の幕引きには、前政権と同様にコロナ禍が大きく影響した。岸田文雄新政権の行く末にも、コロナの動向が影響を与えるであろう。この10年当然視されてきた政治の常識は大きく動こうとしており、そこにはコロナ禍が大きく影を落としている。
9月に菅首相が「コロナの感染拡大防止に専念する」という理由を挙げ、しかし実際には支持率の低迷と当てにしていた派閥からの支持が得られなかったため、自民党総裁選への立候補を断念したのを受け、4人の候補者が立候補(総裁候補の半数を女性が占めたのは初めて)した自民党総裁選を勝ち抜いた岸田新総裁は、大方の予想を裏切り、G20出席を見送って前倒しの衆院選に打って出た。コロナの感染が小休止している間にというのが判断の基にあったのは明らかだ。
コロナ禍もあって政権が衆議院解散の機会を見つけられないまま、任期満了選挙になだれ込むなか、野党共闘は進化。候補者調整が本格化し、213の選挙区で立憲民主党、共産党など5つの野党による候補者一本化が行われた。小選挙区は全体で289なので、8割強の選挙区で実現した形だ。結果的に、競り負けてはいるものの、接戦区が増加したのは確かである。
実際、今回の衆院選は投開票日まで勝負の帰趨が見通し難く、メディアの選挙報道にもブレが見られた。新聞・テレビの選挙情勢は、最近では珍しく各社によって差があり、自民党の危機を伝えるメディアもあった。岸田首相が「勝敗ライン」に挙げた「自公の与党で過半数」という“低め”の水準ですら、必ずしも安泰ではないと空気さえ漂った。
現実には、自民党が底力を見せ、単独で絶対安定多数の議席を獲得したが、安倍政権下の国政選挙では正しく予測していた事前の情勢報道との乖離(かいり)も含めて、政界はもとより、世間でも大きな驚きをもって受け止められた。
こうした一連の流れを概観するだけでも、コロナ禍とそれに対する不安、不満が、政治の下部構造と過去10年の「常識」に強く影響したとみなせるだろう。