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アベノミクスで痛んだ経済・社会の再生へ問われる岸田首相の「決める力」

2022年の日本政治は波高し。コロナ対応、経済、外交……山積する課題にどうのぞむ

星浩 政治ジャーナリスト

 2022年、日本の政治はどう動くのだろうか。

 昨年の政局は、菅義偉首相の突然の退陣表明から自民党総裁選、岸田文雄総裁・首相の選出、そして衆院の解散・総選挙とめまぐるしく展開した。政権を手にした岸田首相は「聞く力」をアピール、新型コロナウイルス対策などを矢継ぎ早に打ち出し、高い支持率を保っている。

 だが、先行きは波高し。コロナ対応だけでなく、経済・社会の再生、米国と中国との対立に挟まれる外交など、日本政治が抱える課題は多い。いずれも自民党政治が正面から向き合ってこなかった問題ばかりで、持ち前の「聞く力」だけでは解決できそうにない。岸田首相の「決める力」が問われる年になるだろう。

2021年を振り返り、記者の質問に答える岸田文雄首相=2021年12月28日、首相官邸

「安倍離れ」の岸田首相に「したたか」の評も

 政権発足から3カ月。岸田首相に対しては「意外にしたたか」という評価が出ている。総選挙の選挙区で敗退した甘利明幹事長の後任に茂木敏充外相を抜擢。安倍晋三元首相が期待した高市早苗政調会長らの起用を受け入れなかった。

 茂木氏の後任の外相には、安倍氏とは祖父以来のライバル関係にある林芳正・元文部科学相を充てた。安倍、林両氏は、地元での対立という因縁だけでなく、保守とリベラルという政治理念の隔たりも大きい。岸田氏が自らの派閥・宏池会のナンバー2でもある林氏を外相に起用し、「安倍離れ」を見せつけた政治的な意味は重い。

 安倍政権のコロナ対策の失敗を象徴する「アベノマスク」についても、岸田首相は「今年度中に廃棄する」と明言。「安倍離れ」を加速する動きと言えるだろう。国会答弁や記者会見での応答でも、「低姿勢」を心がけている。「強圧的」「はぐらかし」といわれた安倍、菅両氏を意識した対応であることは間違いない。

アベノミクスで株価は上昇したが……

 2012年に自民党が政権に復帰してから10年が経つ。民主党から政権を奪還した安倍首相は「悪夢の民主党政権」と繰り返し、政権の求心力とした。アベノミクスによる金融緩和で株価が急上昇、雇用も改善したが、格差は拡大、給与水準は上向かなかった。

 「地方創生」「1億総活躍」など看板は次々と掲げられたが、構造改革は進まなかった。医療体制の改革、デジタル化も、先進国の水準からかけ離れていたことが、コロナの感染拡大で露呈した。森友問題、桜を見る会の問題など「一強政治」に伴う不祥事も続いた。

 続く菅政権はワクチン接種を加速させた。厚生労働省は自衛隊を活用した大規模接種に抵抗したが、菅首相が押し切った。菅首相は高齢者の医療費負担を拡大するなど、安倍政権では踏み込めなかった構造改革の一部に着手した。だが、菅首相はコロナ対策の全体像や経済支援の意味などについて、国民に明確なメッセージを届けることができなかった。危機の宰相としては、発信力不足は致命的だった。

菅首相が明確な発信ができなかったワケ

 安倍政権の官房長官として7年8カ月、記者会見を乗り切ってきた菅氏が、首相として明確な発信ができなかったのはなぜか。永田町や霞が関でしばしば耳にする疑問だが、答えは明白だ。

 官房長官は、記者会見の直前まで各省庁が想定問答を提出し、政府の見解を固めてから記者とのやり取りに臨む。官房長官は、その見解のラインを越えないように回答する。いわば「守りの会見」である。

 だから、想定問答にない質問が飛び出した場合、菅氏も勇み足の回答をしたことがある。加計学園問題で文部科学省内に出回ったメールについて「怪文書のようなもの」と断定したことが典型である。

 一方、首相の会見は、国のトップとして国民に語りかけ、理解を求めるという「攻めの会見」である。テレビを通じて国民に目を向け、「困難な問題でも耐えてほしい」「その先には明るい将来を約束する」といったメッセージを届けなければならない。首相の会見を官房長官流にやっても、「守りの会見」に終始することとなり、メッセージが届かないのは当然だ。

記者会見する菅義偉首相=2021年9月9日、首相官邸、代表撮影

改善されていない医療体制の弱点

 とすれば、岸田首相の最大の課題は、アベノミクスで傷んだ経済・社会を再生するとともに、国会答弁や記者会見を通じてリーダーのメッセージを国民に届けることである。はたしてそれは可能か。以下、具体的に見ていこう。

 岸田政権は、コロナ対策では、オミクロン株ウイルスの感染拡大に対して水際対策を強化し、市中感染が見つかった大阪、京都、東京などで無料検査を進めるなど危機対応を強化した。安倍・菅政権で「後手に回った」との批判を受けたことを意識した対応である。財務省出身の首相秘書官・宇波弘貴氏が厚労省と対応を練り上げ、嶋田隆・首席秘書官が関係省庁との調整を進めた。

 だが、年明けからオミクロン株の感染が急拡大し、入院患者も急増するようだと、

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