花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
立場も政策もバラバラの連立3党・内外に難題山積――安定感だけで首相は務まらぬ
ドイツで、オラフ・ショルツ氏率いる新政権が誕生し1か月近くが経過した。少し前まで、誰も社会民主党(SPD)が政権の座を射止めようとは考えなかった。
同党は、既にその歴史的使命を終えていた。社会民主党と言えば150年近い歴史を誇るドイツ最古の政党で、一時は40%を越える得票を謳歌した政党だ。ところが今や昔日の面影なく、得票率は20%台まで下がる。だから、2018年、時のメルケル首相が2021年の選挙に立候補せず、政界を引退すると表明した時、次期政権を担うのは、同首相のキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)でなければ台頭著しい緑の党に違いないと噂された。社会民主党は、せいぜいいって連立のジュニアパートナーだ。
しかし、その後情勢が大きく変わっていく。結局、2021年9月の総選挙で第一党の座を射止めたのは、誰もが予想しなかった社会民主党だった。同党にとっては青天の霹靂だ。
しかし社会民主党の得票率は25.7%。これでは、2党で連立しても過半数に届かない。3党連立が必要だ。だが、2党ならともかく3党の連立は至難だ。前回、2017年の総選挙後、キリスト教民主社会同盟は、緑の党、自由民主党(FDP)との3党連立を画策したが、結局、日の目を見なかった。今回、合意がまとまるとしても、少なくとも4、5か月はかかるだろうと思われたが、交渉はスピード決着。昨年12月8日、晴れてショルツ新政権が誕生した。
久々の社会民主党政権だ。過去、社会民主党政権は輝かしい実績を残した。ヴィリー・ブラント氏は東方外交、ヘルムート・シュミット氏は西側との強固な関係、ゲアハルト・シュレーダー氏は労働市場改革と、いずれも歴史に名を遺す活躍をした。ショルツ氏も首相として、これぞ社会民主党政権と言われる輝かしい足跡を残したいと心中期するものがあるに違いない。
しかしショルツ氏の場合、先達とは違い前途洋々というわけにはいかない。それどころかどうも雲行きが怪しい。ショルツ氏は「3頭立て馬車」の御者台に座っているようなものだからだ。馬はそれぞれ別の方向を向いている。
今回連立を組んだ3党のうち、社会民主党と緑の党は共に中道左派だ。だからまだ共通点は見つけやすい。ところが自由民主党は中道右派に位置し、党の立ち位置として他の2党と大きく隔たる。自由民主党が保守、ビジネス重視であるのに対し、他の2党は革新、福祉重視だ。
社会民主党と緑の党にしても、同じ中道左派ではあるものの主張は随分異なる。前者は、ジュニアパートナーとしてメルケル政権に参加していた。だから、メルケル路線で踏襲する部分も多いが、緑の党は基本的にメルケル路線転換だ。
ショルツ政権がどこに向かうか、どれだけ実績を上げられるか、それは3党による綱引き次第だ。今のところどうなるか、先行きは見定め難い。