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永田町で話題の菅義偉氏の内幕暴露本に見る「政治報道の落とし穴」

内容は読み応えあり。オフレコ発言の扱い、政治家と記者の間合いをどう考えるか

星浩 政治ジャーナリスト

オフレコ前提の発言を書くことの是非

 権力の内部で起きていることを明らかにするのは、政治ジャーナリズムの仕事であり、キーパーソンだった菅氏の発言を暴露した内容は読み応えがある。取材対象に肉薄した柳沢氏の努力は評価に値する。しかし、冒頭で述べたように、オフレコを前提に聞いている菅氏の発言をそのまま書いた点には問題がある。

 もちろん、オフレコで聞いた話であっても、国民の知る権利に資するためには、オフレコの解除を先方に通告して公表に踏み切ることは、ジャーナリストとしての責務である。しかし、この『孤独の宰相』を出版するにあたって、オフレコ取材と知る権利との兼ね合いをどうするのか、その点の説明が不足している。

 菅氏を取材してきたジャーナリストの中には、柳沢氏と同じような情報を得ている人もいる。柳沢氏がなぜ、オフレコ情報の公表に踏み切ったのか、菅氏側にはどのように通告したのかなど、経緯を明らかにすることが不可欠である。

 取材のルールを恣意的に破ることが横行すると、取材するメディア側と政治家らの信頼関係を築くことが難しくなる。それによって、政治の内部情報が得にくくなり、ひいては国民の知る権利にこたえられなくなる。そうしたメディア全体への影響を考える必要がある。

官房長官と担当記者の間合い

 さらに深刻なのは、官房長官と担当記者との間合いである。やや長いが、これに関する本書のくだりを引用する。

 「官房長官会見で、記者は、何とか菅の口からニュースを引き出そうと、あの手この手で質問するが、菅は規定の答弁ラインから一切逸脱することはなかった。おのずと、記者の質問には直接、答えないことも多くなる。しかし、長官番記者にとってみれば、記者会見で菅の怒りを買う質問を執拗に繰り返すよりも、別の機会にサシとなって懇談取材に呼ばれる方が、メリットが大きいという思惑もある。だから、“はぐらかし”答弁を殊更、問題視することもなくなっていった。メディアと菅官房長官との打算的な関係が築かれていたともいえる。つまり、“鉄壁のガースー”は、こうした関係を前提として成立していた“幻想”のようなものだった」(215ページ)

 要するに、官房長官の記者会見で厳しい質問をすると長官に嫌われるので、会見では当たり障りのない質問をしておいて、後になって個別に取材して懇意になるというのだ。これでは、政府を代表して毎日2回行われる官房長官の記者会見は形骸化し、メディアが政府をチェックするという役割が果たせなくなってしまう。

拡大記者会見で質問に答える菅義偉官房長官=2020年8月11日、首相官邸

官房長官の職責と記者の役割

 私は、菅官房長官側と柳沢氏を含む担当記者側の双方に問題があると思う。

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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