言語、タトゥー、観光から見るグリーンランド流「インディへニズム」
2022年01月16日
ERIKO(エリコ)さんは、国内外のある地域の家庭に一定期間滞在し、生活を共にしながら、家族らの生活やその土地の文化、習慣を配信する「定住旅行」をライフワークにしています。新型コロナの世界的な感染拡大でしばらく休止していましたが、2021年秋から数年ぶりに再開しました。今回訪れたのは日本人には馴染みが薄いグリーンランド。ERIKOさんがそこで知ったことは……。 「世界最北の国グリーンランドで広がるイヌイット・ルネサンス(上)」と合わせてお読みください。
「世界最北の国グリーンランドで広がるイヌイット・ルネサンス(上)」で紹介したように、グリーンランドの生活には、グリーンランド人の先祖であるイヌイットの習慣と、この地を植民地にしたデンマークの文化的要素が、さまざまに重なり合っている。そんななか、イヌイットの文化価値やアイデンティティを再認識する機運が、若者を中心に高まっている。
本稿では、こうした「イヌイット・ルネッサンス」とでもいうべき潮流に関してグリーランドで筆者が感じたことを、三つの例を挙げてレポートしたい。
一つ目は「言語」である。
デンマークは、グリーンランドを植民地とするうえで、言語統制は行わなかった。そのお陰で、今なお彼らの言語カラーリット語が、途絶えることなく子孫へ継承されている。
言語を失った民族はアイデンティを保持することが難しい。言語には彼らの先祖が経験した歴史や、その民族が重きを置く価値観が詰め込まれており、民族がアイデンティティを強く感じる重要な役割を担っているからだ。
筆者はかつてジョージアに「定住旅行」をしたことがある。コーカサス山脈やワインで知られるこの国は、これまで幾度となく隣国からの侵略を受け、消滅の危機に貧しながらも、自分たちの言語を守り抜いてきた。現在でもジョージア語は、自身のアイデンティを強く感じる対象であり、民族の誇りを持つための大きなよりどころになっている。
グリーンランドの若者たちも、言語を次世代に継承していくことに重きを置いている。最近は子どもにつける名前もカラーリット語が圧倒的に多い。
首都ヌークに家族4人で暮らすアーニャさんは30代後半。彼女には二人の息子がおり、彼らの教育方針についてこのように語ってくれた。
「私の両親は私にデンマークの教育を与えました。幼稚園も学校も全てデンマーク語で行われる教育現場で育ったのです。思春期になったとき、自国の言葉であるカラーリット語があまり理解できないことで、自分のアイデンティはどこにあるのかという悩みに直面しました。それを機にカラーリット語を独学で学び始めました。
息子たちは公立学校へ通っていますが、授業を担当する教師によって使う言語が異なります。デンマーク語で授業をする先生が多い年があったのですが、子どもたちがカラーリット語を忘れてしまいそうになり、ゾッとした経験があります。子供たちには自国の言葉をしっかりと身につけて欲しいので、家ではカラーリット語しか話さないとルールを決めてコミュニケーションをとっています」
こうしたアーニャさんの方針は決して例外ではなく、子どもを持つグリーンランド人の親たちが、子どもたちとはカラーリット語で話すように心がけている姿をよく目にする。9年間の義務教育中に子どもにデンマークへ留学をさせる親は少なくないが、親たちは子どもたちが新しい経験を積むことを願う反面、カラーリット語を忘れてしまわないか心配になるという。
世界最北の国グリーンランドで広がるイヌイット・ルネサンス(上)
「イヌイット・ルネッサンス」の二つ目の例はタトゥーである。ここでタトゥーを扱うことに、好意的なグリーンランド人はほとんどいないかもしれない。ただ、著者は最大の敬意を持って彼らの文化を紹介したい。
その昔、イヌイットの人たちは、顔や手、太ももなどにタトゥーを入れる習慣を持っていた。それらは、初経を迎えた印(しるし)、赤ん坊を迎えるための装飾、先祖のスピリットとの絆を示す象徴など、多様な役割を果たしていた。
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