山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ワクチン接種義務化を巡る議論が活発なフランス。大統領選の候補者が賛否の論陣
感染力の強いオミクロン株の襲来によって、一日あたりの感染者数が30万に達するフランスで、ワクチン接種の義務化を巡る論争が活発だ。4月の大統領選(直接選挙、2回投票。1回投票で50%以上の得票率者がいない場合、上位2人が2回目の決選投票を行う)を控えているだけに、再選を狙うマクロン大統領を筆頭に各候補者が、賛否の論陣を張っている。
論争のきっかけは大統領の発言だ。新年早々の4日、大衆紙『パリジャン』とのインタビューで、「ワクチンを受けていない人たちには非常にウンザリしている」と述べた。この「ウンザリする(Emmerder )」という動詞が俗語の“汚い言葉”。大統領が公共の場で使うような単語ではない。
大統領は続けて、「ワクチンは続行する。これは戦略である」とも指摘。さらに、「私の自由が他者の自由を侵す時、私は無責任者になる。無責任な人間は市民ではない」とも述べ、ワクチン拒否者を感染増大の「無責任者」と糾弾した。
大統領の発言としては、俗語「ウンザリ」の使用はもとより、強圧的な発言だけに、発言直後の各種世論調査では、50%以上が大統領の発言を「国家元首の発言としては不適切」とし、否定的な意見が圧倒的だった。
早速、大統領選への出馬表明をしている極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首が、「私はフランス国民全員の大統領になる」と述べ、ワクチン拒否者を「非国民扱い」したとしてマクロンを非難、牽制した。
マクロンは大統領選への正式出馬表明はしていないが、再選を狙うことは確実視されている。ルペンは2017年の大統領選でマクロンと決選投票を争って敗退しただけに、復讐を誓っているといわれる。
最大野党の右派政党、共和党(LF)の公認候補に年末の予備選で決まったばかりのヴァレリー・ペクレスも、ワクチン義務化には同調するものの、「ワクチン拒否者を差別している」と非難し、ここぞとばかりにマクロン攻撃を強めている。
メディアも右派系『フィガロ』が、「政府の真の医療政策の欠如」を棚上げした無責任な発言と批判。隣国イタリアの『テンポ』紙は「正気を失った」と酷評するなど、欧州内でも反響も呼んでいる。
大統領は7日、こうした批判に対し、エリゼ宮での欧州委員会との会合後のフォン・デア・ライエン委員長との共同会見の機会に、発言を「完全に」確認するとし、あらためて「ワクチン拒否者の自由は無責任(と同意語)」と指摘し、非接種者を非難した。
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