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タリバン政権下のアフガニスタンに人道支援と国際制裁を分けた対応が必要なワケ

アフガンの国民を主体に据えて中長期の発展を目指すことが重要だ

小美野剛 ジャパン・プラットフォーム共同代表理事 CWS Japan事務局長

 過去最悪の人道危機に陥っているアフガニスタンに対し、国連安全保障理事会の決議2615(2021)が2021年12月22日に採択された。これは、人道支援を目的とする現地への資金提供は過去の制裁決議に違反しないということを、安保理が全会一致で採択したものである。

 この採択は極めて重要だと思う。ここに盛られた「人道支援と国際制裁をわける」という考え方こそが今、アフガニスタンには不可欠だからである。私はこれまで「論座」にアフガニスタンへの支援についての論考を寄せてきたが、今回は「人道支援と国際制裁をわける」ことがなぜ必要なのか、人道支援に長年携わってきた経験を踏まえて論じたい。

拡大Svetlana Turchenick/shutterstock.com

国際送金の緩和は喫緊の課題

 「人道支援と国際制裁をわける」ことで今、もっとも期待されるのは、国際送金の緩和だ。

 2021年8月にタリバンが全権掌握して以来、ドル建ての国際送金ができなくなった。日本からアフガニスタンへ銀行送金する場合、中継銀行が間に入るが、ドル建てで送金する際には、米国の中継銀行を通ることから、送金できない状態となってしまったのだ。米ドルなどの調達が難しくなり、現地通貨も印刷されないため、同国内の現金は枯渇した。現在、ヨーロッパ経由などの送金は可能だが、人道支援が円滑に進むためにも、こういった制約自体がなくなることが望ましい。

 アフガニスタンでは、現金不足のために銀行からの現金引き出しの制限が続いており、週ごとに200米ドル相当のアフガニー(現地通貨)しか引き出せない。現金の流動性にも問題があり、各銀行の支店においては、一日に対応できる人数を制限している。実際、ある同僚はもう3週間も現金を引き出せていないと言う。

 アフガニスタンは過去最悪、かつ「現在の地球上で最悪」の人道危機に直面している。この危機によってGDPの3割が失われると言われており、経済破綻の兆候も見えてきている。ヨーロッパなどへの移住を望んで、隣国へと脱出する人も多い。命を落とすリスクが高いが、「現在のアフガニスタンにいても同じだ」という声もよく聞く。

 人道支援のための資金を早急にアフガニスタンに送ることは、文字どおり喫緊の課題である。

拡大アフガニスタン中央山岳地帯で洞窟に住む家族©CWS Japan

アフガン人の自助努力を後押しする必要も

 ところで、こういった危機下のなか、「今までは国際支援に頼りすぎだった。もっと自分達で何とかしなければ」といった声を少しずつ耳にするようになった。

 現在の人道危機に対処することが最重要であることは当然だ。しかし、それと同時にこれから新たなルールや枠組みで国づくりを担っていくアフガニスタン人の自助努力を、日本を含めた国際社会ができる限り後押しする必要がある。

 それこそが、これまで20年間、アフガニスタンの国づくりのために国際社会がおこなってきた投資を無駄にしないことに繋がるからだ。


筆者

小美野剛

小美野剛(こみの・たけし) ジャパン・プラットフォーム共同代表理事 CWS Japan事務局長

1980年生まれ。特定非営利活動法人CWS Japan事務局長及び認定NPOジャパン・プラットフォーム共同代表理事。アジア防災緊急対応ネットワーク(ADRRN)理事兼事務局長、防災・減災日本CSOネットワーク(JCC-DRR)共同事務局、支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク(JQAN)代表などを兼務。アフガニスタン、パキスタン、ミャンマー、タイなどの現場を経て東日本大震災から日本の事業も開始した。同志社大卒業、ブランダイス大学大学院開発学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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