花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
主要国は軒並み不安定な情勢。岸田政権のオミクロン対策にかかっている
2021年、米日独と民主主義陣営の主要3か国で新政権が発足した。2022年、仏日米の3か国で選挙が行われる。政権交代も選挙も、結果次第では政治が不安定化する。実に、2021年、22年は、民主主義陣営にとり政権基盤が安定を欠く2年といえる。
この民主主義陣営の脆弱性を権威主義体制が見逃すはずがない。案の定、ロシアはウクライナ国境沿いに軍隊を集結させ、侵攻も辞さない構えだ。中国は、北京五輪と、5年に一度開催される秋の共産党大会を前に、それなりの抑制を働かせるはずだが、台湾や尖閣諸島周辺等、これ見よがしに領空、領海侵犯を繰り返す。イランの動向も気がかりだ。
国際政治の中、日本の参議院選挙はいかなる意味を持つか。
上記、民主主義陣営4か国のうち、米独の足元は盤石でない。
米国は、インフレが高騰し、国民の懐を直撃する。当初、一時的と見ていたFRBも、そうも言っていられなくなってきた。テーパリングの前倒しや金利引き上げでどこまでインフレを抑え込めるか、これからがまさに金融政策の正念場だ。
バイデン政権が華々しく打ち上げた大型法案の内、1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資法は何とか成立したが、子育て支援や気候変動対策を含む1.75兆ドル(約200兆円)の歳出歳入法案は、未だ成立の見通しが立たない。議会で法案一つ通せないとあっては、バイデン政権の威信も揺らがざるを得ない。インフレの高進と法案成立の停滞でバイデン政権の人気は湿りがちだ。
加えて、ここに来てオミクロン株が猛威を振るう。一日当たり新規感染者数140万人超はにわかに信じがたい数字だ。11月の中間選挙までに、バイデン政権が、この「三重苦」を克服し支持率を回復させられるか、予断を許さない情勢が続く。
既に、多くの論者は民主党の敗北を予想する。現在、民主党は上院で共和党と同数(議長のハリス副大統領を入れ過半数)、下院は8議席差で優位に立つだけであり、中間選挙で上下両院のいずれか、あるいは両方の優位を失うことがあれば、残る2年、バイデン政権は一気に政策の推進力を失っていく。
民主党の敗北はすなわち共和党の勝利だ。その共和党は、依然トランプ氏の影が色濃く及ぶ。世界はここに来て「2024年トランプ氏復活」もあり得る、と考え始めた。それは権威主義体制側も含めてのことだ。
トランプ氏支持者の議会乱入事件以来、米国の民主主義は危機に瀕しているが、そのトランプ氏が戻ってくるのだろうか。2024年以降、米国は一層頼りにならない存在に堕す可能性がある。
ドイツは、メルケル氏が抜けた穴は大きかった。メルケル氏に対しては「変革を回避し、専ら現状維持に終始した」との批判はあるが、その調整能力に異を挟む者はなく、メルケル氏のお陰でEUは結束しその存在感を高めることができたことは否定しがたい。そのメルケル氏が抜けた。
代わって誕生したショルツ新首相は複雑な3党連立の上に乗る。問題は、3党は連立に合意したものの同床異夢の面が少なくないことだ。環境やデジタルで積極財政を志向する緑の党に対し、自由民主党(FDP)は財政規律重視の立場であり、容易に財布のひもを緩めようとしない。自由民主党のクリスティアン・リントナー党首は財務相に就任、野放図な支出に目を光らせようと構える。
対露政策は、ウクライナ危機で、早くもショルツ首相の手腕が問われる事態になったが、同首相が属する社会民主党(SPD)はロシア・シンパが多く対露宥和的であるのに対し、外相に就任した緑の党のアンナレーナ・ベーアボック氏は基本的に対露強硬派だ。
つまり、ショルツ首相は3党の調整に足を取られるあまり、強力なリーダーシップを発揮できなくなる可能性がある。
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