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被爆地広島出身の岸田首相の熱意~「核兵器のない世界」目指す日本外交に期待

核軍縮を政策の柱に掲げる初の政権――分断が深まる世界の「橋渡し」に具体策を

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

拡大2015年の核不拡散条約(NPT)再検討会議で話す岸田文雄外相(当時)。会議は翌月、中東非核地帯構想への米英などの反発で決裂し、最終文書の採択ができぬまま閉幕した=2015年4月27日、国連本部

核軍縮交渉が進展しない中、二つの締約国会議が開催予定

 今年は、核軍縮に関する二つの重要な会議が開催される予定である。一つ目は、5年に一度開催されるNPTの運用検討会議であり、コロナの影響で延期が繰り返されて、目下8月頃をめどに調整中である。二つ目は、NPTの重要な要素である核兵器保有国による核軍縮交渉が全く進展を見ないことにしびれを切らせた核兵器非保有国が、核兵器の製造、取得、使用、威嚇などすべての側面を禁止する趣旨の核兵器禁止条約を昨年1月に発効させたが、その第1回の締約国会議が3月に予定されている。

拡大核兵器禁止条約の採択後、わき上がる議場。スマートフォンで採択を報告する外交官も相次いだ=2017年7月7日、ニューヨークの国連本部
 実は筆者の外交官生活において一番初めに携わった仕事が1960年代終盤の我が国のNPT署名問題であり、以後、退官後も含めて50年以上にわたって軍縮問題をフォローしてきたが、近年核軍縮交渉が進展しない理由としては、大雑把に捉えて以下の3点が指摘できると思う。

① 米ロ間の信頼関係が薄れ、両国間の核軍縮条約は、昨年2月に5年間の延長が合意された戦略兵器削減条約(START)のみとなっている。

② 核を保有する5か国(P5)内の対立は激しく、特に中国が米国との均等を主張して、核軍縮には全く後ろ向きである。

③ 核兵器禁止条約の成立以降、これを主導した諸国とP5との信頼関係が著しく欠如しており、合意文書案の作成を含むNPT運用検討会議の準備も停滞している。

 このような状態で、本年、核兵器禁止条約締約国会議が開催されても、また、NPT運用検討会議が延期されて8月頃に開催されても、ともに実質的な内容のある合意文書の作成は容易ではないと見受けられる。そこでこのような事態を打破して、今年の核軍縮交渉を前進させるためには、日本が果たすべき役割は何であろうか。

拡大史上初の国連軍縮特別総会に参加した、日本国民の代表団のデモ行進。「ノーモア・ヒロシマ」の声は、摩天楼に響いた=1978年、ニューヨーク
拡大1981年6月5日、衆院外務委員会は非核三原則を盛り込んだ核軍縮決議を全会一致で採択した。決議の骨子は①核兵器拡散のおそれを除去するため最善の努力をする②国連をはじめ国際会議等で我が国の軍縮に対する態度をより一層明確にする、の2点。写真は採択後、委員に挨拶する園田直外相

新年早々、核保有5か国が共同声明

 予定されていたNPT運用検討会議開催日の前日である本年1月3日に、突然、P5諸国は「核戦争防止と軍拡競争回避のために共同声明」を発出した。

 多くの識者は、この声明は5か国が、NPT運用検討会議において、非保有国側から核軍縮の停滞について非難されることを予防するために先手を打った戦術的なものと理解している。日本を含むいくつかの国は、「核兵器のない世界の実現に向けた機運を高めるもの」としてこれに歓迎の意を示した。確かに核保有5か国によるこのような共同声明は前例のないものであり、その姿勢は評価しうる。

 しかし、この声明は英文にして300語程度の短い精神的規定であり、NPT第6条の核軍縮交渉の遂行義務に言及はしているものの、具合的な内容は何も示されていない。今後、運用検討会議の議論を通じて、5か国側に核軍縮交渉で推進すべき諸措置(例えば、核兵器の透明性向上、核リスクの低減、核軍縮教育の促進など)についての具体的内容を示すよう追及していくことが重要である。

日本は「橋渡し」の役割を果たして来れたのか

拡大オンラインで開催された核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合で発言する岸田文雄首相=2021年12月9日、首相官邸
 昨年12月にオンラインで開催された日本政府主催の核軍縮の実質的進展のための官民合同の国際会議において、岸田首相は核軍縮の現状に関して、「立場の異なる国々の間の分断が深まり、核軍縮を協力して前に進めるための共通の基盤が失われつつあります。」と厳しく指摘した。この分断という現状が正に、NPT運用検討会議の成功に暗雲をかざす要因となっている。

 岸田首相は、前述の10月の国会における所信表明演説においては、「核兵器のない世界を目指し、……核兵器保有国と非保有国との橋渡しに努める」旨を強調した。この「橋渡し」は、日本が唯一の戦争被爆国として長年にわたって、国の内外に向かって訴えてきたスローガンでもある。日本は「橋渡し」の役割を実際に果たして来れたのであろうか。

拡大ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は2019年11月24日、被爆地の長崎と広島を訪れて演説し、核兵器の廃絶を強い言葉で訴えた。核保有だけでなく核抑止も否定。米ロのINF全廃条約の崩壊など核軍縮後退を懸念し、被爆の記憶継承と団結を世界に呼びかけた

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筆者

登 誠一郎

登 誠一郎(のぼる・せいいちろう) 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省(1965)、駐米公使(1990)、ロサンジェルス総領事(1994)、外務省中近東アフリカ局長(1996)、内閣外政審議室長(1998)、ジュネーブ軍縮大使(2000)、OECD大使(2002)を歴任後、2005年に退官。以後、インバウンド分野にて活動。日本政府観光局理事を経て、現在、日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長、安保政策研究会理事。外交問題および観光分野に関して、朝日新聞「私の視点」、毎日新聞「発言」その他複数のメディアに掲載された論評多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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