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「カザフの冬」の到来か:権威主義国家の末路

塩原俊彦 高知大学准教授

第三段階としての新体制:騒乱後

 11日になって、トカエフはビデオを通じて国会議員に演説した。そのなかで、「2日後にはCSTO合同平和維持隊の漸進的撤退が始まる。撤退には10日以上かかることはない」と語った。さらに、「軍隊、法執行機関、国家安全保障機関、外国情報機関の仕事を再構築する必要がある」とした。「治安部隊の司令部は直ちに戦闘技術の訓練を開始し、効果的な防御と攻撃の手段を装備すべきである」ことや、「意思決定に際して安全保障機関の自主性を確保し、その指導者の責任のレベルを高める」ことも約束した。

 興味深いのは、「経済成長の主たる利益享受者は金融オリガルヒグループであった」と指摘したうえで、「これらの寡占化により、自由な市場の発展は著しく制限され、競争力が低下している」と発言したことである。同じ演説では、「初代大統領のエルバスィ(カザフ語で「国民の指導者」の意味でナザルバエフを指す)のおかげで、非常に儲(もう)かる企業群、国際的にみても豊かな層が出現した」とも指摘している。つまり、ナザルバエフ敬意を表しつつ、批判が込められていたことになる。行政システムの包括的な改革の必要性をのべた部分では、「採用・昇進の真の原則は「実力主義」であるべきだ」とも語り、ナザルバエフのつくりあげてきたシステムの欠陥、すなわち縁故主義の実態を厳しく批判している。

 トカエフは新首相にアリハン・スマイロフ前第一副首相を指名し、議会の承認を経て、新内閣が発足した。16人の閣僚には、7人の新閣僚が含まれている。内務相トゥルグムバエフはそのポストを維持した。国防省、外務省などの主要な閣僚も留任した。一方、「ナザルバエフ・ファミリー」の一員とされるベイブト・アタムクロフ産業・インフラ発展相は失職した。マグズム・ミルザガリエフエネルギー相やマラト・ベケタエフ法相も更迭された。ミルザガリエフは燃料価格の上昇を招いた直接の責任をとらされたかたちだが、アタムクロフの更迭には深い意味合いが込められているのかもしれない。ベケタエフについては、大統領のあらゆる構想や指示を一貫して妨害してきたとされる。一見すると、ナザルバエフ離れを印象づける新内閣だが、NSCを中心とする治安機関の再編をみなければ、ナザルバエフ時代との決別の程度はわからない。

 17日になって、ナザルバエフの親族が公的部門から離脱したことが明らかになる。前述したアビシュ以外にも、女婿(むすめむこ)のティムール・クリバエフが、全国企業家会議所「アタメケン」というビジネス界の総本山のトップから自主的に辞任したと発表された。末娘の夫、ディマシュ・ダサノフはKazTransOil JSCという石油パイプライン会社の重役会議長(社長)の座を奪われたほか、長女ダリガと非公式結婚したとみられるカイラト・シャリプバエフも2020年11月から保有していたQazaqGaz(旧KazTransGas)の社長から去った。

 こうしたなかで、18日になってようやくナザルバエフが現れ、国民へのビデオメッ
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を伝えた。そのなかで、「カシムジョマルト・トカエフ大統領は安全保障評議会の議長であり、全権を握っている。もうすぐヌル・オタン(カザフスタンの与党)の代表に選ばれるから、この国のエリートには対立も紛争もない。この件に関する噂(うわさ)は全く根拠のないものだ」と、自らの口で明らかにした。

地政学的意義:ロシアへの支援要請の代償

 最後に、今回の騒乱の地政学的意義について考えたい。

 ナザルバエフの「院政」に取って代わろうとしたトカエフは、その過程で権威主義国家ロシアのプーチンを後ろ盾にしたことで、カザフスタンもまた権威主義国家の紐帯(ちゅうたい)に強く結びつけられる結果となった。別言すれば、トカエフは自らの判断で、中ロという権威主義国家に近づくことでしか自らの地位を守れない権力者となる道を選択したことになる。これは、国内に反政府活動をかかえる他のCSTO加盟国(アルメニア、ベラルーシ、キルギス、タジキスタン)の首脳にとって、自らの権力保持のために、CSTO、すなわち、ロシアのプーチンとの連携の重要性を再認識させる結果となったはずだ。

 しかし、

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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