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台湾を巡る軍事情勢と「台湾有事」の蓋然性

 中台の軍事バランスは確実に中国に有利に変化している。

拡大台湾と向かい合う浙江省などに拠点を置く中国陸軍第72集団軍と海軍の合同上陸訓練=中国国防省のウェブサイトから.
 米国防省年次報告(2021年)によれば、東部・南部地域の中国の戦力と台湾の戦力は陸軍(兵員で41.2万人対8.8万人)、海軍(駆逐艦数で21対4)、空軍(戦闘機で700対400)いずれも圧倒的に中国が有利な状況で、その差は年々拡大し、特に中国の海軍勢力(空母、潜水艦等)の増強は顕著だ。近年、台湾周辺での人民解放軍の活動が活発化し、中国軍による台湾防空識別圏への侵入は2020年には延べ約380機であったものが2021年には延べ950機へと三倍近く増えており、2021年10月4日には一日だけで延べ56機を数えている。

 台湾の防衛能力を強化するため、トランプ政権は毎年米国武器を売却し、バイデン政権になっても昨年8月計7億5千万ドル相当の武器を売却している。台湾も海軍機雷敷設部隊の設置、潜水艦増設計画をはじめ防衛力を強化しているほか、昨年10月に蔡英文総統は米軍が台湾において台湾軍の訓練を行っていることを明らかにした。

 さらに米国や米国の同盟国も中国をけん制する行動を強めている。米国はインド太平洋戦略やQUAD(日米豪印)、AUKUS(米英豪)を通じて対中抑止力を強化してきており、今後もその流れは続く。国際海峡である台湾海峡には従来中台の緊張関係に鑑み各国海軍艦船の通航は避けられてきたが、近年、米海軍はほぼ毎月ミサイル駆逐艦を通過させており、昨年9月に英国海軍、10月にはフランス海軍とカナダ海軍が艦船を通過させている。

拡大演習でミサイルを発射する台湾海軍のフリゲート艦=2019年5月

習総書記の最優先は「経済成長に基づく共産党統治の継続」

 米国を巻き込み中台の軍事的緊張は高まっているが、今日、中国が台湾への軍事侵攻を行う蓋然性は高いのだろうか。

 中国が台湾に軍事侵攻を行うとすれば、それは人民解放軍の判断ではなく、習近平総書記を主任とし軍事・外交・台湾問題責任者を含む中国共産党中央外事工作委員会で議論し決定されると推測される。習近平総書記は1985年から17年間もの長い期間、台湾の対岸に位置する福建省に勤務しており、台湾問題には精通していようし、今日、習近平総書記が権力基盤を固めている状況からすれば、習近平総書記の判断が圧倒的に重いということだろう。

 習近平総書記にとり、最も高いプライオリティは、高い経済成長に基づく共産党統治の継続だと考えられる。国民の締め付けを強化する共産党統治の正統性は高い経済成長を続け、国民を豊かにすることに求められている。しかし、少子高齢化を迎えつつある中国の成長率は下降していくし、ゼロコロナ政策は経済成長を大きく阻害している。米中対立の下でのハイテクを中心とする「デカップリング」の動きや習近平総書記が掲げる「共同富裕」を実現するために巨大IT企業の資本供出を求めることにより、企業の成長が阻害されていくのだろう。

拡大オンライン方式で開かれた会議で演説する中国の習近平国家主席=2021年12月5日、新華社

常識的には考えられぬ台湾侵攻。独立の動きが明白なら現実味も

 台湾への武力侵攻は戦争になり、国際社会から中国非難の指弾を受けようし、中国の経済成長を大きく阻害し、繁栄にとってのコストは高い。このような展望の中で、正面からの台湾侵攻を企図することは常識的には考えられない。

 中国が台湾侵攻を企図する場合は、台湾の明白な独立への動きを武力で止めようとする場合か、台湾侵攻が低い政治的経済的コストで確実に成功するという確証を持つ場合なのだろう。

 中国は台湾が正式な国交を持つ国々への働き掛けを強化し、数カ国が既に台湾との国交を放棄して中国と外交関係を持つようになっており、最近のリトアニアの「台湾代表事務所」開設を認める動きにも神経を尖らせている。国際機関への参加も含め「一つの中国、一つの台湾」を作り出す動きには経済措置を中心に対抗措置をとるだろうし、更に独立を鮮明にした動きには軍事措置を辞さないということなのだろう。

 1995~96年の台湾海峡危機は台湾の初の民主主義的選挙で独立色を強めた李登輝総統の選出が濃厚になった際、中国が演習と称して台湾海峡にミサイルを撃ち込んだことに始まったのは記憶に新しい。この時米国は空母群を台湾近海に派遣し中国を強くけん制したが、米国は中国の軍事的攻勢にはその都度対応措置をとっていくのだろうし、台湾侵攻が確実に成功するという見通しを中国が持つのは至難だろう。勿論、米国が軍事介入を行わない場合には、この限りではない。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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