「聞く力」岸田文雄首相の術中~「真空総理」小渕氏以来の流儀にメディアは……
旗幟鮮明で敵と味方を峻別する安倍流と真逆。「分かりにくさ」に絡め取られないために
曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)
似た雰囲気をまとっていた小渕首相
どうだろう。それこそこれが安倍氏なら、まずは自分の旗幟を鮮明にした上で、岸田氏との違いを強調してみせるに違いない。それが岸田氏の場合は、そもそも彼我の違いや敵と味方の峻別といったところからものごとを思考し始めないのかもしれない。
だとすれば、なぜ岸田首相が分かりやすくないと思ってしまうのか、そちらの方を考え直してみなければなるまい。
こうした雰囲気をまとう首相が他にいたかと取材の記憶を辿ると、ほぼ四半世紀前の1998年に首相に就いた小渕恵三氏に行き着いた。

就任の記者会見をする小渕恵三首相=1998年7月31日、首相官邸
無駄に相手を敵視しない「真空」の本領
誰にでもすぐ電話をかけ、知恵を授かろうとするので「ブッチフォン」と称された。参院選で自民党が惨敗し、衆参がねじれた直後に首相になったが、金融国会では、政府案にこだわりも見せず、民主党など野党案を「丸呑み」して金融再生法を成立させてみせた。
調整型とか「人柄の小渕」とか評するむきもあったが、そんな単純な話ではなかろう。中曽根康弘元首相がその融通無碍な手法に「真空総理」とあだ名を付けたのに対し、本人がいけしゃあしゃあと言い返したのには驚いた。
「おれは真空総理だから対立することはないんだ。無なんだ。空なんだ。ぼくがAで官房長官がBなら対立もあるが、Aがないんだ」
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