新世代はすでに適応している。「大変化の時代」を悲観主義に陥らず受け入れて生きる
2022年01月29日
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冷戦終結の声明を出したマルタでの米ソ首脳会談に臨んだブッシュ米大統領(左)とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長=1989年12月3日確かに、30年前と比べ今日は何という変化か。30年前、人々は冷戦の終結に際しバラ色の世界を夢見た。明日をも知れない核戦争の恐怖は終わりを告げ、自由民主主義が高らかに勝利を宣言した。これからは、自由民主主義が世界の隅々を覆っていく。しかし、30年経った今日、人々は、いいしれない不安に襲われる。バラ色とは打って変わった、何やら灰色じみた世界で、先行きが混沌とし見通しが効かない。
人々が悲観主義に打ちひしがれるのには理由がある。
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トランプ氏の「選挙は盗まれた」「議会へ向かえ」という演説を聞いた支持者らが連邦議会議事堂を襲撃。バイデン氏勝利の選挙結果を認定する会議が中断し5人が死亡した=2021年1月6日温暖化は、思ってもみなかった異常気象をもたらし、数年に一度とされる災害が毎年のように我々を襲う。気候変動もパンデミックも、本来であれば、人類が協力できる絶好の機会のはずだ。かつて、レーガンはゴルバチョフに、火星人がやってきたら米ソ対立はなくなると言ったという。確かに、外敵の襲来があれば人は互いに争ってなどいられなくなる。
今の時代、外敵とは気候変動でありパンデミックだ。だが、我々はこれら「外敵の襲来」を前に、有効な協力体制を築けずにいる。かくて、世界は後戻り不能とされる気温上昇のレベルに刻々と近づき、先進国でワクチンの3回目接種が進む中、アフリカの人々は1回目接種すらままならない。
北極圏にあるノルウェー領・スバールバル諸島の北東島。氷河の末端では至る所で滝のように水が落ちていた
米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏しかし、人々が社会の公正に疑問を抱き始めたのは危険だ。製造業で有利な地位を享受していた白人中間層が、デジタル化の進行とともに没落の憂き目にあい、今やポピュリズムが世界を席巻する。確かに、株高に潤う者を横目で見れば、自らの没落した生活は何なのかと、怒りが沸いて来ようというものだ。人は、皆が貧しければ不満はない。自分が貧しく他が豊かだから他への憎悪が掻き立てられる。
その憎悪は、社会のより弱い立場にある者に向けられがちで、世界のあちこちで移民排斥が勢いを増す。ドイツで、旧西独でなく旧東独に極右支持が多いのは象徴的だ。そういえば、かつてのユダヤ人排斥も同じ構図だった。
パリ中心部の道路を埋め尽くした、反イスラム移民を訴えるGIのデモ参加者。「イスラムは欧州の外へ」などと訴えた=2019年11月
リビアの国連施設前で座り込む移民たちの強制排除に向かう治安部隊。欧州が移民への門を閉ざす中、地中海を渡る密航船の出発地であるリビアで行き場を失った人々だ=2022年1月10日、タリク・ラムロームさん提供米国の一極支配と思ったのは冷戦後のほんのわずかの期間だった。米国の優位は決して絶対でなく、それどころか、見る見るうちに減退していった。代わって2000年代、台頭著しい新興国に注目が集まったが、今は、その新興国も中国一人勝ちの様相だ。中国以外のBRICSも当時注目されたラテンアメリカも、今ははるか彼方に後塵を拝する。強権体質を強める中国と米国の覇権競争は世界が新たな対立の時代に入ったことを自覚させるに十分だ。
これら全てが悲観主義を裏付ける。何やら、我々はパンドラの箱を開けてしまったかのようだ。ありとあらゆる災禍が箱から解き放たれ世界に充満していく。我々は冷戦が終結した30年前、ユーフォリアに酔いしれ、つい気が緩んで開けてはならない箱を開けてしまったのだろうか。
気候変動サミットで中国の習近平国家主席が映し出された画面を見る米国のバイデン大統領=2021年4月22日、米国務省ウェブサイトの中継動画からいや、30年前こそが例外だった。我々は、これまでも多くの災禍を潜り抜けてきた。それは何も今に始まったわけでなく、徒に悲観的になるのは禁物だ。そもそも、全てがバラ色に塗りつくされた美しい世界などあるわけがない。
翻って、「予測不能なニューノーマル」を必ずしも「悲観主義」として捉えることはないのかもしれない。むしろ、我々が「大きな変化の時代」に生きていることこそが、その重要な含意だ。「先が見通せない」とは「お先真っ暗」でなく、「全てが変化し、次に何がやってくるか分からない」ことに中心的意味がある。
Ben Photo/shutterstock.com冷戦時代は核の恐怖にさらされながら、それなりに変化が少なく「無風」の時代だった。その冷戦が終結し、人々は「歴史が終わり、これ以上の進展や変化はない」と豪語した。何のことはない、我々は「大変化の時代」の幕開けを見ていたに過ぎなかった。
米航空宇宙博物館には、「冷戦終結」の象徴としてINF条約で米ソが廃棄に踏み切った旧ソ連の弾道ミサイル「SS-20」(左)と米国の「パーシングⅡ」(右)が並んで展示されている時代が大きく変化するとき、「変化が急過ぎる」とか「次に何が来るかわからない」といえば再び悲観主義に逆戻りだ。我々は羅針盤を失い海図を見失ってしまう。しかし、変化にはマイナス面だけでなくプラス面もある。変化と見れば、つい身構えてしまうのが旧世代だが、新世代はさして違和感もなく変化を受入れている。1990年代半ば以降生まれのZ世代にとり、「変化」は新たな「与件」でしかない。
「2021ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「Z世代」が選ばれ、「Z」の文字をポーズで示すNPO法人「あなたのいばしょ」の大空幸星理事長らZ世代の受賞ら=2021年12月有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
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