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「ロシアのウクライナ侵攻」という騒ぎを読み解く:米ロ「どっちもどっち」という視点が重要

塩原俊彦 高知大学准教授

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 ロシアが現在、ウクライナ国境に展開している兵員数はわからない。10万人規模の兵士がいるというのが米国政府の見立てだが、ウクライナ側は12万人以上だとみている。ロシア軍の配備は昨年春から軍事演習を名目に進められてきた。演習後も駐留が長引いており、それがウクライナ側の不信感につながり、米国が「ロシアのウクライナ侵攻」という計画の存在を「でっち上げる」要因ともなっているように思われる(この点については、拙稿「「ロシアのウクライナ侵攻」はディスインフォメーション:真相を掘り起こす」を参照)。

 プーチンは、ウクライナ国境近くに配備した多数の兵力を恫喝(どうかつ)材料にして、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟といった西側勢力による東方拡大を阻止しようとしているのだろう。だが、それがウクライナへの全面的な侵攻計画による脅しであるというのは、あくまで米国政府の勝手な推量でしかない。むしろ、騒動を煽(あお)って大きくすることで、米国内の政治に利用しようとしているように思えてくる。

 いったい、ロシアによるウクライナ侵攻騒ぎは何なのか。ここでは、まず、根拠があるとは思えない全面的なウクライナ侵攻計画をでっち上げた米国側の事情について説明する(なお、ここでの見方はあくまで筆者個人の見解であると断っておきたい)。そのうえで、そうした深謀遠慮のもととなった2021年春以降のプーチンの目論見(もくろみ)について解説してみよう。

ウクライナ危機の概観

 最初に、2014年の出来事を振り返っておきたい。このウクライナ危機については、筆者は『ウクライナ・ゲート』と『ウクライナ2.0』という2冊の本で詳しく解説したことがある。今回の「ロシアのウクライナ侵攻」問題と同じ登場人物がかかわっているので、まずはこのウクライナ危機について簡単に説明しておきたいと思う。

 ウクライナ危機は、親ロシア派とされるヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領(当時)を武力で追い落とす策謀が成就した第一段階と、ロシア系住民保護を名目にウラジーミル・プーチン大統領によってクリミア半島がロシアに併合されたり、東部ドンバス地域の独立闘争が激化したりした第二段階の二つに分けて考えることができる。

 

ヌーランド拡大ヴィクトリア・ヌーランド=shutterstock.com
  第一段階で大活躍したのが当時、米国務省次官補だったヴィクトリア・ヌーランドである。彼女はウクライナ西部に多いウクライナ語重視のナショナリストを焚きつけて(武装訓練まで施して)、ヤヌコヴィッチをロシアに追い出すことに成功する。

 ここで、『ウクライナ2.0』に書いた少し長い引用をお許しいただきたい。

 「ついでに、米国政府のあざといやり口をもう一つ紹介すると、アザロフ元首相によれば、反政府勢力がキエフに集まって抗議活動を展開したころ、ヌーランドは「抗議者に暴力をふるうな。さもなければ、あんたはつぶれるよ」と語り、ウクライナやその指導者に対する厳しい政治経済的制裁を科すと恫喝したという(Der Spiegel,2015年第11号)。抗議者に暴力をふるうようなことがあれば、「あんたやあんたのダチがウクライナから奪ったカネの情報を 公にしてやるから」と脅したのだという。
 すでに紹介した2月21日のアザロフ・インタビューでぼくが聴いたのは、2月19日、大統領府や政府ビルを警備していた、通常の警官に対して300人ほどの反政府勢力が攻めてきたときの話である。警官は支援を求める一方、武力衝突で過激派数名が負傷した。そのころ、ジョー・バイデン副大統領から電話があり、「いかなる条件下でも、戦闘はするな」という「脅し」があったという。ところが、反政府勢力は警官を殺害したり、拷問にかけたりと、やりたい放題で、米国政府は二枚舌を使ってクーデターに加担していたという。ぼくの感覚からすると、ヌーランドの話は事実だろうと思う。
 この女性は驚くほど強気で、恫喝も日常茶飯事なのだ。だからこそ、在外公館との連絡は暗号化された機密性の高い手段で行わなければならないのに、そのルールを平然と破り、その結果として「Fuck EU」と叫んでいたことが暴露されることになる。そういう女なのである。」

 「反政府勢力に対して暴力をふるうな」と脅すことは悪いことではないかもしれない。しかし、公然と暴力で政権交代を迫るナショナリストへの支援は民主的な選挙で選ばれたヤヌコヴィッチへのクーデターを肯定することを意味し、民主主義自体の否定そのものだ(もちろん、選挙に不正があったかもしれないが、ロシアの大統領選よりもずっと民主的な手続きを経て、彼は2010年に大統領に選ばれていた)。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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