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ウクライナで「ドローン戦争」か?:陸上戦に自信をもつウクライナ・米国

塩原俊彦 高知大学准教授

 緊迫するウクライナ情勢について、前回、拙稿「「ロシアのウクライナ侵攻」という騒ぎを読み解く:米ロ「どっちもどっち」という視点が重要」において解説した。ロシアによるウクライナ侵攻計画なるものが米国政府によってでっち上げられたものであり、米ロ双方の言い分について精査する必要性を強調した。今回は、裏で米国側が戦争を挑発しているかにようにみえる事態について軍事面から説明してみたい。キーワードは「ドローン戦争」の時代の到来である。

注目すべきウクライナによるトルコ製ドローンの使用

 2021年10月27日、ウクライナ東部情勢の平和的解決のためのコンタクトグループ(ロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構[OSCE]の代表者からなる)がビデオ形式による定例会議を開催した。その前夜、ウクライナ軍は、トルコ製のドローン(無人機)、「バイラクタル無人機」(TB2)を初めてウクライナ東部の紛争地域、ドンバスにおいて使用した(このときの動画とみられるものを見ることができる)。

 ウクライナ参謀本部は、接触線近くのウクライナ軍陣地を攻撃した榴弾(りゅうだん)砲の砲台を攻撃するために使用したとしている。TB2はレーザー誘導ロケット弾を発射し、榴弾砲を破壊した。

 TB2は翼長12メートルで、一度に24時間も空中にとどまることができる。遠隔操作で爆弾やミサイルを発射するだけでなく、自爆攻撃も可能だ。

ドローン=shutterstock.com拡大ウクライナ独立30周年を機に行われた軍事パレードで披露された軍事ドローンTB2(2021年8月24日)=Lina Reshetnyk /shutterstock.com

 この事件に対して、ドンバス和平に関係するドイツとフランスの外務省は懸念を表明した。これに対して、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、「ウクライナ軍がドンバスの陣地にバイラクタル無人機を使用したとの報道については、現在この情報を照合している」というコメントを出すにとどめた。ロシア大統領報道官ドミトリー・ペスコフも、「我々はトルコと特別で良好な関係を持っているが、今回は残念ながら、ウクライナ軍へのこのような武器の供給は、接触線上の状況を不安定にする可能性があるという我々の懸念が確認された」と発言するだけで、TB2を使用したウクライナやそれを輸出したトルコを非難するこさえしなかった。

 ここに、いま問題になっているウクライナをめぐる緊張状態を解く軍事上のカギがある。この点を理解するには、2020年9月27日から始まった「ナゴルノ・カラバフ戦争」の軍事的側面を知る必要がある。

TB2の活躍

 50日に満たない戦闘で7000人以上の人命が失われた戦争は、11月10日夜のアゼルバイジャン、アルメニア、ロシアの首脳による、紛争地域での敵対行為を終わらせるための合意文書への署名でひとまず終結されることになった。ただ、その内容は「アルメニアの事実上の軍事的降伏」と言えるものだった。アゼルバイジャンの大勝利を支えたのは、トルコから調達したTB2やイスラエルから購入した「ハロップス」などの無人偵察機であった。

 ゆえに、「ドローン戦争の時代が到来した」と言われるようになるのである(濱畑信成著「ナゴルノカラバフに見る無人兵器」を参照)。注意しなければならないのは、TB2そのものも重要だが、より注目すべきはその運用システムにある点だ。攻撃すべきものの情報を集め、優先順位を決定し、それを実現するための指揮・制御・通信システムが全体として機能したからこそ、TB2の戦果につながったのである。

 このトルコ製のTB2は2020年の初め、シリアのイドリブ州でも2日間の電撃戦でシリアの戦車隊を消滅させたことがある。

 こうした「実績」に裏打ちされているTB2をウクライナがすでに保有している以上、ウクライナ軍は自信を深めているに違いない。さらに、2018年以降、対戦車ミサイルである「ジャベリン」(FGM-148)がウクライナに供与されており、最近になって、米国政府はジャベリン300基を出荷済みだ。赤外線誘導ミサイルで、空高く飛んでから標的に叩きつけるように設計されており、特に上部の装甲が最も薄い戦車に対して致命的となる。ほかにも、「毒針」を意味する「スティンガー」(FIM-92)という米国製対空ミサイルや英国製の自動誘導式対戦車ミサイル(NLAW)も供与される。

 2019年1月、当時のウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコはTB2を12機購入する契約を締結したと発表した。TB2は射程の関係で攻撃用に使用するが難しいジャベリンと異なり、攻撃用に使用できるという特徴がある。だからこそ、この種の最新兵器を欧米から購入することはできなかったわけだ。NATO加盟国とはいえ、クリミア半島に多数のトルコ系住民をかかえるトルコ政府はTB2のウクライナへの輸出に踏み切ることにしたのである。

 2021年12月にロシアの通信社が伝えたところでは、トルコ企業は2019年以降、キエフに「数十機」のドローンを販売し、少なくとも20機のドローンの発注が現在進行中であるという(この企業はBaykar Makinaで、そのオーナーはトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の女婿(むすめむこ)、セルチュク・バイラクタルだ)。ほかにも、前述したウクライナによるTB2の初使用直後のロシア報道(資料を参照)として、ウクライナはトルコと共同で無人機プロジェクトを進めており、すでにテスト用に引き渡されており、共同生産なので自国軍に必要なだけの無人機供給が可能との情報もある。つまり、ウクライナは2019年以降、TB2の使用体制を強化しているとみられる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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