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山口二郎氏、安河内賢弘氏対談~労働組合と政治、果たすべき役割は?(下)

いびつな社会、ただす政治をどうつくるか

木下ちがや 政治学者

いびつな世界が「当たり前」になると与党に傾く

拡大山口二郎氏(左)と木下ちがや氏=2022年1月19日、東京都港区

 山口)若者の自民党支持が高いというのは労働者も学生も同じです。JAMの情報発信サイトinsightにも書きましたが(注5)、内閣府が毎年実施する社会意識に関する調査をみると、2010年代の半ばごろに大きな意識変化が起きており、それが政治に大きな影響を与えていると思います。「社会の現状に満足している」という項目は、 2000年代までは不満が6割で満足が4割でしたが、2013年に逆転して満足が6割で不満が4割になります。アベノミクスにより満足が増えたわけではありません。安倍政権の政策が具体化するよりもまえにすでに満足度が上回っていました。社会への満足度が高いからこそ、安倍政権は史上最長となったわけです。

 この原因のひとつは「失われた30年」のあいだ賃金がまったく上がらない状態が続いていることにあります。ようするに日本全体がジリ貧だということが自明の前提となり、とりわけ若い世代の人々は楽観とか希望とかをまったく持てなくなっているからです。状況が改善できないなら、現状を受け入れるしかない。よりよい社会が作れるという前提が崩れたら、これはもう与党に傾くしかないということになる。それから20代の人たちは物心ついてからずっと安倍政権でしたから、それ以外の政治のあり方がわからない。野党については内輪もめとか批判ばかりとかネガティブなイメージが流布されてしまっている。

 ですから若い人たちが野党を支持しないのはある意味当然だと思うところから出発して、どう変えていくかという問いを立てなければなりません。東京大学の本田由紀さんが去年「日本ってどんな国-国際比較データで社会がみえてくる」(ちくまプリマ―新書)という面白い本を出版されています。さまざまなデータを駆使して日本の現状を多面的に描いくある種データブックのような本ですが、これを読むと日本という国とその政治、社会、経済がいかにいびつかが、とても説得的に論じられています。

 問題はこのいびつな世界にずっといる人にとってはそれが当たり前ということになり、 変えなきゃいけない、もっといいものがあるという発想が出てこない。そこに問題があるわけです。ですから学者の仕事はこれが決して当たり前ではない、こういうふうに政策や制度を変えればもうちょっと生きやすい社会ができると言いつづけるしかない。労働組合の場合は、さまざまな取り組みをしながら賃上げや労働条件の改善を勝ち取り、小さくても変化を体験するとても貴重な場ですから、学者が説教するよりも労働運動の成功体験の方が人の意識を変えることができる。「がんばれば世の中をちょっとだけよくできるんだ」という可塑性の感覚を持てると思います。

労組は「公器」、すべての労働者のために働けば政治力もつく

 ――紹介していただいた組合員のアンケートをみても、組織されていることが政治的な民主主義の土台になっています。労働運動というのは経済活動だけではなく、実は民主主義の土台だったことが、認識されてきたのは最近のことです。それまで当たり前にある空気のよう思われていましたが、失われそうになったとき、実は本当は大切なものだったということに学者も気づいた。

拡大安河内賢弘氏(左奥)と山口二郎氏=2022年1月19日、東京都港区

 安河内)労働運動の最大の課題は組織率を上げていくことですが、現状では男性正社員・大手企業のための団体であり、冷戦時代のイデオロギーをいまだに引きずっている古い団体というイメージが定着してしまっています。このイメージを払拭することなしに組織拡大は絶対に進まないと思います。

 他方で、これまでは組織拡大のことばっかり意識していて、すでに組織されている労働者のための団体であるという意識が強すぎたために、非正規や未組織の労働者のための運動が停滞してしまっていた。労働組合は社会の公器であり、組合費を払っているかどうかにかかわりなく、全ての労働者のために世の中を変えていく社会的な義務があるという認識に、連合だけではなく構成している産別や単組が立たないと、イメージの払拭にはつながっていかないと思います。これができれば政治力もつきますし、自由闊達な議論もできるようになっていくのではないでしょうか。

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筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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