メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

山口二郎氏、安河内賢弘氏対談~労働組合と政治、果たすべき役割は?(下)

いびつな社会、ただす政治をどうつくるか

木下ちがや 政治学者

注目される欧米のZ世代、日本の若者も世の中に目を向ければ

 山口)労働組合の問題に入る前に、未来をどう展望するのかという話をしたい。

 欧米ではZ世代がとても注目されています(注6)。気候変動をはじめとする地球環境問題の深刻化を何とかしなければいけないという気運が、わたしたちの世代よりも20代、10代の方が何十倍も強い。19世紀後半以後の資本主義の爆発的成長の中で、わたしたちは成長を前提としつつ、資本主義のいきすぎをコントロールし、一般大衆の取り分を増やしていくことを考えてきました。ですが21世紀半ばにおける政治の課題は、分配の公正とともに、いかに環境を守り、すべての人間の尊厳ある生を守るのかに移行していく。短期的に見ればアメリカのバイデン政権も先行きに不安はあるし、欧州でも右派ポピュリズムが力をもっていることなど、対峙すべき事はありますが、20年、30年のスパンで考えれば、今のZ世代が50代、60代になったころには政治の風景はおおきく変わっているだろうと思います。

 アメリカのZ世代たちは、借金をして大学に行ったものの返せる見込みがないところから社会の矛盾にぶつかり、異議を申し立てています。つまり近代的な人間の成功モデル――高等教育を修了し、能力を身につけ、専門職に就いて富を手にする――がもはや幻想だということが明らかになっています。日本とは異なり、アメリカではこうした幻想に対する反発が若者層の左傾化というかたちで広がっていると思います。金儲けよりも平等や共存を望むという価値観が今後広がっていくのではないかと私は思っています。

 問題の状況は日本も同じなわけですから、若い人たちが世の中に目をしっかり向ければ、同じような変化が起こると思います。わたしは今大学一年生相手に政治学入門を教えていますが、学生たちの反応はとても面白い。学期末のレポートで「総選挙に必ず投票にいこうと、政治に無関心な友達を説得する手紙を書いてみる」という課題をだしました。するとすごく面白い作品がたくさん出てきて、良い意味で驚きました。それでいろいろ聞いてみると、今の一年生たちは高校時代に入試制度改革で大変な迷惑をこうむった経験がある。そしてみんなで声を上げたら入試制度改革が止まったという経験がある。ですからかれらの世の中と大人への目線はとても厳しい。わたしはそこに可能性を見いだします。

 かれらが学校を卒業して働きだしても、アメリカ型の新自由主義的な成功モデルに乗って稼いで豊かになろうという、かぼそい「蜘蛛の糸」につかまって登っていくような可能性を追求する生き方を選択する人は、いまは少ないと思います。むしろ普通に働いて幸せな関係をつくって心豊かに生きていくことを追求する人がこれから主流になっていくと思います。大学で学生たちも社会を読み解くリテラシーを学んで、卒業して働きだしたら今度は労働組合に入って充実した生き方をするために連帯するような流れが広がるのがベストな方向ですね。

拡大山口二郎氏(左)と木下ちがや氏=2022年1月19日、東京都港区

転勤のない働き方の模索が始まった。労組も地域社会を支える

 安河内)最近は「地域限定職」が結構導入されていまして、賃金は下がるけれども転勤がないという働き方です。JAMの組合員でもこれを選択する人がかなりいまして、管理職のなり手がいなくなるから困るという状況があります。このような状況を受けて、一部大手企業では、地域限定かに関係なく転勤のない働き方を模索しはじめています。出世よりも生活の安定を求めているという大きな流れがあるように思います。

 ――労働組合が地域コミュニティを守るためにどんな役割を果たせるのかという課題と捉えることもできます。

 安河内)地域社会の中に、働く若者がほとんどいないんですよね。NPOを訪ねると、やはり高齢者と女性が多い。そこにわれわれの世代の人間はほとんど存在していない。それは社会にとっても人々にとってもおおきなマイナスだと思います。そうした社会参加の機会を広げる取り組みを、組合もかつてはやっていたんですね。ですから今後も改めてそれを発展させて、われわれも社会のなかで生きていくうえで社会を支える必要があるので取り組みを強化していきたい。これまでやってきていたんですから、やってやれないことないと思うんですよ。労働運動で社会を変えられると信じないと、なかなかそこまで行かないので、組合員の皆さんにはそういうメッセージを伝えていこうと思っています。

 労働組合と政治との関係については、二大政党的政治体制をつくっていくという方針が実現するまではそれを追求し続ける必要があると思っています。新たな関係はそこから先ですよね。二大政党的な体制が定着した段階で、労働組合としてどう向き合っていくのかを考えていくことになります。今はあくまでも二大政党を目指して労働組合としてしっかりと応援団として政党を支えることが重要だと思います。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

木下ちがやの記事

もっと見る