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佐渡金山の世界遺産推薦問題に「歴史戦」とやらの余地はない

朝鮮人労働者への「差別」「強制」の事実は地元の町史にも書かれている

植松青児 雑誌記者・編集者

安倍晋三氏「強制労働とはいえない」

 1月28日、岸田文雄首相は、「佐渡島の金山」(新潟県)を世界文化遺産の候補として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する方針を表明した。それまでの推薦見送りの方針を一転したのは、安倍晋三元首相や高市早苗政調会長など自民党内右派への配慮があったと見られている。

 推薦をめぐって争点となったのは、佐渡鉱山(金および銅を生産)における朝鮮人労働者の問題だった。三菱鉱業佐渡鉱業所は、1939年から朝鮮人「募集」を開始し、終戦までの間に延べ1000人以上の朝鮮人労働者を動員した。これが「強制労働」にあたるのか、「差別」はあったのかが焦点になった。

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 これに対し、林芳正外相は「金山で強制労働が行なわれたかのような韓国側の主張は受け入れられない」と表明し、松野博一官房長官も2月1日の記者会見で、歴史的事実などを国際社会に訴えるために省庁横断型の作業部会の立ち上げを表明。いっぽう、立憲民主党の泉健太代表も、「推薦」支持を表明している。

 安倍氏は1 月26日付『夕刊フジ』1面に掲載されたインタビューで、当時の史料を示しながら次のように主張した。

 「当時の労働環境をまとめた資料『佐渡鉱山史』(大平鉱業佐渡鉱業所)や、佐渡鉱業所『半島労務管理ニ付テ』などには、『日本人と朝鮮人労働者はおおむね同一の賃金で、複数回の賞与が支払われた』『無料の社宅や寮があり、米やみそやしょうゆの廉価販売があった』『運動会や映画鑑賞会など、娯楽機会の提供があった』などと記されているという。これでは、『強制労働』とはいえない」

 「ここまで来れば、新潟と日本の誇りと名誉を守るためにも、正々堂々とファクト(事実)ベースで反論して、ユネスコの世界遺産委員会の了解を得ていくしかない。リングに上がる前にタオルを投げてはダメだ」

 そして最後に「いまこそ、新たな『歴史戦チーム』を立ち上げて、日本の誇りと名誉を守り抜いてほしい」と結んでいる。

 その後も『夕刊フジ』は連日のように1面トップで佐渡金山問題を取り上げている。2月3日付同紙1面では、「事実は1つ」「史料で毅然」「韓国粉砕」という見出しで、佐渡鉱業所『半島労務管理ニ付テ』から安倍氏と同じ記述を引用し、「基本的に日本人労務者と同じ」待遇だったことを前面に打ち出している。

 安倍氏や『夕刊フジ』が打ち出す構図は、明快な二項対立である。自ら(日本)の認識は「ファクト」をベースにした「正しい歴史認識」てあり、韓国側の主張はそうではない、だから堂々と「ファクト」ベースで反論すべきだ、「史料で毅然」と応戦すべきだ……。

「第2の軍艦島 佐渡鉱山 韓日歴史問題衝突」(東亜日報)などの見出しで、佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録の推薦決定を報じる韓国の主要紙拡大「第2の軍艦島 佐渡鉱山 韓日歴史問題衝突」(東亜日報)などの見出しで、佐渡金山遺跡(新潟県佐渡市)の世界文化遺産登録の推薦決定を報じる韓国の主要紙

 しかし、問題は安倍氏たちの論証手法である。自らの主張にとって都合の良い史料のみを根拠に「ファクト」を結論付けていないだろうか。たとえば、地元の自治体の町史などの記述をきちんと読み込んだのだろうか。

 佐渡鉱山の地元である旧・相川町(現・佐渡市)が1995年に刊行した町史『佐渡相川の歴史 通史編 近・現代』(相川町史編纂委員会・編)には、佐渡金山に戦時動員された朝鮮人労働者についても5頁近くが割かれている。そこには佐渡鉱業所の日本人社員の証言も掲載されている。佐渡市も、佐渡鉱山関連の報告書を多く作成している。

 それらに書かれた当時の朝鮮人労働者の状況は、安倍氏たちの主張する「ファクト」とは大きく隔たっている。以下、3点にわたって紹介したい。

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筆者

植松青児

植松青児(うえまつ・せいじ) 雑誌記者・編集者

1960年生まれ。雑誌デザイナー、TV局のテロップ校正、百貨店勤務等を経て2018年より週刊「金曜日」編集部。「金曜日」表紙デザインも担当。執筆記事に「アジアの人々と『ノーモア・ヒロシマ』は共有可能か〜沼田鈴子さんの実践に学ぶ」(『金曜日』2019年7月31日号)、「『社会史・労働史』が欠落している産業遺産情報センター展示」(http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2020/11/05/news-82/)ほか。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです