エリート官僚養成校・ENAを廃校にしたマクロン。批判が強いエリート政治は変わるか
2022年02月06日
フランス大統領選(直接選挙、2回投票=4月10日、24日。1回投票で過半数獲得者がいない場合、上位2人による2回投票=決選投票を実施)まで3カ月を切り、最後の“直線コース”に入った。関心の的は、エマニュエル・マクロン大統領(44)の再選なるか。それとも、極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首(53)、中道右派政党・共和党(LR)のヴァレリー・ペクレス公認候補(54)の女性2人のどちらかが、フランス初の女性大統領になれるか、だ。
ただ、今回の大統領選にはもう一つの焦点がある。エリートと非エリートのどちらの政治をフランス国民は望んでいるのかという点だ。おりしも、これまでマクロンを含め4人の大統領を排出してきたエリート官僚養成校の国立行政学院(ENA)が昨年12月31日をもって廃校になった。その背景からは、エリートに対する国民の複雑な視線が透けてみえる。
前回、2017年の大統領選の決選投票では、マクロンとルペンが争い、マクロンが反極右票を結集し60%以上の得票率を獲得して勝利した。
マクロンはENA出身、いわゆる「エナルク」(ENA出身者)だ。一方、ルペンは弁護士の資格試験に合格、パリ弁護士会に所属して数年間、働いた後に、父のジャンマリが創設した極右政党・国民戦線(FN)に入党して後継者になった。前回の大統領選で敗れた後は極右色を薄め、党名も「国民連合(RN)」に改名した。
実は、ルペンは大学入学資格試験(BAC)に一度落第し、追試験で合格した非優等生だ。決選投票の直前に行われる慣例の候補者2人によるテレビ討論では、各種の問題について完璧に熟知、マスターしていたマクロンに対し、ルペンは数字などがあやふやでオタオタした。そんな「イデオロギー以前の醜態ぶり」(仏記者)が大いに響いて、惨敗した。
ルペンを猛追中なのが、極右系の候補者、エリック・ゼムール(63)だ。エリート校のひとつ、パリ政治学院の出身だが、エナルクではない。
右派系朝刊紙「フィガロ」の記者を務めた後、民放ラジオの討論番組などで、イスラム教過激派を含めた反イスラム教、反アラブ系移民の立場から激しい論争を展開して名を売ったので、大半の仏メディはゼムールを「ポレミスト(論争者)」と紹介している。
ゼムールはENAの試験を受けたが、不合格。そのため、マクロンをはじめとするエナルクに対し、異常な敵愾心(てきがいしん)を抱いているともいわれ、それが大統領選出馬の原動力になっているとの指摘もある。ルペン側近の辣腕(らつわん)弁護士らが次々にゼムール支持に回るなど、一種の雪崩現象が起きているが、各種世論調査の1回目の予測得票率はひと桁(1月末現在)なので、決選投票に進出できるかは微妙だ。
目下のところ、各種の世論調査で1回目の予測得票率が20数パーセントのマクロンがトップ(2月5日現在、正式出馬表明はまだ)。2位につけているのが、予測得票率15、16パーセントのルペンとペクレスだ。ルペンの予測得票率がゼムールへの雪崩現象の影響で低下しているのに対し、安定しているのがペクレスだ。
ペクレスはENA出身。ENAの実習期間中に日本留学の経験もある。卒業後の就職先を成績上位者から順番に選べた時代に(この制度はエリートの上にさらにエリートを作るという批判から廃止になった)、成績上位者が好んで選んだ参事院(法制局と最高行政裁判所を兼ねたもの)に入ったエリート中のエリートだ。ちなみにマクロンはENAを5番で卒業し、やはり上位成績者の指定席、財務視察官になった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください