山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
エリート官僚養成校・ENAを廃校にしたマクロン。批判が強いエリート政治は変わるか
フランス大統領選(直接選挙、2回投票=4月10日、24日。1回投票で過半数獲得者がいない場合、上位2人による2回投票=決選投票を実施)まで3カ月を切り、最後の“直線コース”に入った。関心の的は、エマニュエル・マクロン大統領(44)の再選なるか。それとも、極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首(53)、中道右派政党・共和党(LR)のヴァレリー・ペクレス公認候補(54)の女性2人のどちらかが、フランス初の女性大統領になれるか、だ。
ただ、今回の大統領選にはもう一つの焦点がある。エリートと非エリートのどちらの政治をフランス国民は望んでいるのかという点だ。おりしも、これまでマクロンを含め4人の大統領を排出してきたエリート官僚養成校の国立行政学院(ENA)が昨年12月31日をもって廃校になった。その背景からは、エリートに対する国民の複雑な視線が透けてみえる。
前回、2017年の大統領選の決選投票では、マクロンとルペンが争い、マクロンが反極右票を結集し60%以上の得票率を獲得して勝利した。
マクロンはENA出身、いわゆる「エナルク」(ENA出身者)だ。一方、ルペンは弁護士の資格試験に合格、パリ弁護士会に所属して数年間、働いた後に、父のジャンマリが創設した極右政党・国民戦線(FN)に入党して後継者になった。前回の大統領選で敗れた後は極右色を薄め、党名も「国民連合(RN)」に改名した。
実は、ルペンは大学入学資格試験(BAC)に一度落第し、追試験で合格した非優等生だ。決選投票の直前に行われる慣例の候補者2人によるテレビ討論では、各種の問題について完璧に熟知、マスターしていたマクロンに対し、ルペンは数字などがあやふやでオタオタした。そんな「イデオロギー以前の醜態ぶり」(仏記者)が大いに響いて、惨敗した。