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フランス大統領選は「エリートvsエリート」か「エリートvs非エリート」か

エリート官僚養成校・ENAを廃校にしたマクロン。批判が強いエリート政治は変わるか

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

 フランス大統領選(直接選挙、2回投票=4月10日、24日。1回投票で過半数獲得者がいない場合、上位2人による2回投票=決選投票を実施)まで3カ月を切り、最後の“直線コース”に入った。関心の的は、エマニュエル・マクロン大統領(44)の再選なるか。それとも、極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首(53)、中道右派政党・共和党(LR)のヴァレリー・ペクレス公認候補(54)の女性2人のどちらかが、フランス初の女性大統領になれるか、だ。

 ただ、今回の大統領選にはもう一つの焦点がある。エリートと非エリートのどちらの政治をフランス国民は望んでいるのかという点だ。おりしも、これまでマクロンを含め4人の大統領を排出してきたエリート官僚養成校の国立行政学院(ENA)が昨年12月31日をもって廃校になった。その背景からは、エリートに対する国民の複雑な視線が透けてみえる。

フランスのマクロン大統領=2021年10月22日、ブリュッセル

エリートのマクロン、非優等生のルペン

 前回、2017年の大統領選の決選投票では、マクロンとルペンが争い、マクロンが反極右票を結集し60%以上の得票率を獲得して勝利した。

 マクロンはENA出身、いわゆる「エナルク」(ENA出身者)だ。一方、ルペンは弁護士の資格試験に合格、パリ弁護士会に所属して数年間、働いた後に、父のジャンマリが創設した極右政党・国民戦線(FN)に入党して後継者になった。前回の大統領選で敗れた後は極右色を薄め、党名も「国民連合(RN)」に改名した。

 実は、ルペンは大学入学資格試験(BAC)に一度落第し、追試験で合格した非優等生だ。決選投票の直前に行われる慣例の候補者2人によるテレビ討論では、各種の問題について完璧に熟知、マスターしていたマクロンに対し、ルペンは数字などがあやふやでオタオタした。そんな「イデオロギー以前の醜態ぶり」(仏記者)が大いに響いて、惨敗した。

記者会見する右翼政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏=2021年10月22日、ブリュッセル

ENA出身に敵愾心を抱くゼムール

 ルペンを猛追中なのが、極右系の候補者、エリック・ゼムール(63)だ。エリート校のひとつ、パリ政治学院の出身だが、エナルクではない。

 右派系朝刊紙「フィガロ」の記者を務めた後、民放ラジオの討論番組などで、イスラム教過激派を含めた反イスラム教、反アラブ系移民の立場から激しい論争を展開して名を売ったので、大半の仏メディはゼムールを「ポレミスト(論争者)」と紹介している。

 ゼムールはENAの試験を受けたが、不合格。そのため、マクロンをはじめとするエナルクに対し、異常な敵愾心(てきがいしん)を抱いているともいわれ、それが大統領選出馬の原動力になっているとの指摘もある。ルペン側近の辣腕(らつわん)弁護士らが次々にゼムール支持に回るなど、一種の雪崩現象が起きているが、各種世論調査の1回目の予測得票率はひと桁(1月末現在)なので、決選投票に進出できるかは微妙だ。

外人記者との会見で質問に答えるゼムール氏(中央)=2022年1月17日、パリ(筆者撮影)

エリート中のエリートのペクレス

 目下のところ、各種の世論調査で1回目の予測得票率が20数パーセントのマクロンがトップ(2月5日現在、正式出馬表明はまだ)。2位につけているのが、予測得票率15、16パーセントのルペンとペクレスだ。ルペンの予測得票率がゼムールへの雪崩現象の影響で低下しているのに対し、安定しているのがペクレスだ。

 ペクレスはENA出身。ENAの実習期間中に日本留学の経験もある。卒業後の就職先を成績上位者から順番に選べた時代に(この制度はエリートの上にさらにエリートを作るという批判から廃止になった)、成績上位者が好んで選んだ参事院(法制局と最高行政裁判所を兼ねたもの)に入ったエリート中のエリートだ。ちなみにマクロンはENAを5番で卒業し、やはり上位成績者の指定席、財務視察官になった。

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