「攻撃されて初めて防衛できる」ことが意味するもの
2022年02月05日
連日のように、ロシアのウクライナ侵攻が目前であるとマスコミが伝えている。またマーク・ミリー米統合参謀本部議長も「ロシア軍がウクライナ国境付近に10万以上の戦力を集結させている。侵攻すれば市街地での戦闘になり多数の被害者が発生する」と述べている。これに加えて、欧米等の在ウクライナ大使館が職員を国外退避させる動きなど緊迫した現地情勢も伝わってきている。
ここで改めてウクライナという国について俯瞰したい。東欧に位置し北はベラルーシ、西はポーランド、スロバキア、ハンガリー、南はルーマニア、モルドバ、東はロシアと接し、黒海とアゾフ海にも面している。人口は約4100万人、首都はキエフである。歴史的に見ると、古くはウクライナ国の成立からモンゴルの侵入、第一次・第二次世界大戦など激動する東欧においてその中心地に位置する国家である。特に第二次世界大戦時、ソビエト連邦の一部として、国土が独ソ戦の主戦場となり両軍が激しく激突した地でもある。戦争は約4年間続き、ウクライナではキエフの戦い、ハリコフ攻防戦、ドニエプル河渡河作戦など歴史上有名な激戦が行われた。この戦争で国内は荒れ果て犠牲者は800万人以上とされ、ウクライナ人の5人に1人が亡くなったといわれている。
地理的に見るとウクライナはロシアの弱い脇腹に匕首を突き付けた形をした位置にある。ロシアにとれば戦略上の重要な地域であり、ここをNATO(北大西洋条約機構)の勢力下に入れられると国土防衛上致命的なダメージを受ける地域、いわゆる生命線である。第二次世界大戦においてドイツ軍が「バルバロッサ作戦(ソ連侵攻作戦)」により、白ロシア(ベラルーシ)とウクライナで赤軍(ソ連軍)を殲滅し、決定的勝利を得ようとしたことでも分かる。
2014年のクリミア・東部紛争においてロシアは強引にクリミアを併合、またウクライナ東部地区の親露派武装勢力を支援し、彼らにドネツィク州及びルガンスク州に一方的に人民共和成立を宣言させた。その状況が今日までウクライナ危機として続いている。これまでの紛争により1万4000人が犠牲になったといわれている。現在、ロシアはベラルーシにも戦力を集結させ、米国に対してNATOの東欧拡大停止などを要求している。
冒頭のミリー統参議長の発言の裏付けは、偵察衛星や電波情報、現地のヒューミント情報などを総合的に分析した結果だと思われる。侵攻が目前とは、具体的にはウクライナ国境付近の機甲部隊等の展開と活動、支援する砲兵部隊の展開位置、兵站施設の活動状況、司令部と第一線部隊指揮所間の通信量と内容などをみて軍事的合理性から分析した結果である。
一方、ウクライナ側もただ手をこまねいているだけではない。西側諸国から兵器の援助を受け、防御施設を構築、軍や民兵を訓練しロシア軍の侵攻に対処しようとしている。ナゴルノ・カラバフ紛争においてアゼルバイジャン軍がアルメニア軍の戦車や陣地を自爆ドローンにより攻撃し勝利した戦例がある。この紛争に使用された自爆ドローンと同型のものをウクライナが多数購入したとの情報もある。
しかしながら総兵力約90万人、陸軍約33万人、戦車約2800両(保管中を含めると約1万3000両)という強大な戦力を有するロシア軍に、総兵力約18万人、陸軍約8万人、戦車約700両のウクライナ軍がどこまで抵抗出来るのかは分からない。また侵攻作戦において、ロシア軍は陸海空の従来作戦領域に宇宙・サイバー・電磁波領域を加えた領域横断作戦を実施するはずであるが、この領域横断作戦をウクライナ軍がどこまで阻止出来るのか安全保障専門家の注目するところである。
数年前に自衛隊の高官として初めてウクライナを訪問した陸上自衛隊幹部がいるが、彼の話によるとロシア軍の領域横断作戦能力は、電子戦部隊及びその活動、サイバー攻撃、非正規戦の様相など西側諸国の軍事専門家を震撼させるほどの実力だとのことである。
ウクライナにとってロシア軍の侵攻は第二次世界大戦後、再び大規模な戦争が国土で行われることを意味している。両軍の戦闘が市街地を含み大規模に行われれば、一般市民を巻き込み被害は甚大になるとミリー統参議長も述べている。
日本の安全保障にとってロシアのウクライナ侵攻は大きな示唆を与えている。
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