メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「専守防衛」とは「まず国土に被害が生じる」を意味する〜ウクライナ危機から考える日本の安全保障

「攻撃されて初めて防衛できる」ことが意味するもの

山下裕貴 元陸将、千葉科学大学客員教授

 連日のように、ロシアのウクライナ侵攻が目前であるとマスコミが伝えている。またマーク・ミリー米統合参謀本部議長も「ロシア軍がウクライナ国境付近に10万以上の戦力を集結させている。侵攻すれば市街地での戦闘になり多数の被害者が発生する」と述べている。これに加えて、欧米等の在ウクライナ大使館が職員を国外退避させる動きなど緊迫した現地情勢も伝わってきている。

第二次大戦で800万人が犠牲になったウクライナ

ロシア軍はウクライナの国境に集結している Corona Borealis Studio/shutterstock.com拡大ロシア軍はウクライナの国境に集結している Corona Borealis Studio/shutterstock.com

 ここで改めてウクライナという国について俯瞰したい。東欧に位置し北はベラルーシ、西はポーランド、スロバキア、ハンガリー、南はルーマニア、モルドバ、東はロシアと接し、黒海とアゾフ海にも面している。人口は約4100万人、首都はキエフである。歴史的に見ると、古くはウクライナ国の成立からモンゴルの侵入、第一次・第二次世界大戦など激動する東欧においてその中心地に位置する国家である。特に第二次世界大戦時、ソビエト連邦の一部として、国土が独ソ戦の主戦場となり両軍が激しく激突した地でもある。戦争は約4年間続き、ウクライナではキエフの戦い、ハリコフ攻防戦、ドニエプル河渡河作戦など歴史上有名な激戦が行われた。この戦争で国内は荒れ果て犠牲者は800万人以上とされ、ウクライナ人の5人に1人が亡くなったといわれている。

ウクライナは「ロシアの弱い脇腹」の位置

 地理的に見るとウクライナはロシアの弱い脇腹に匕首を突き付けた形をした位置にある。ロシアにとれば戦略上の重要な地域であり、ここをNATO(北大西洋条約機構)の勢力下に入れられると国土防衛上致命的なダメージを受ける地域、いわゆる生命線である。第二次世界大戦においてドイツ軍が「バルバロッサ作戦(ソ連侵攻作戦)」により、白ロシア(ベラルーシ)とウクライナで赤軍(ソ連軍)を殲滅し、決定的勝利を得ようとしたことでも分かる。

hyotographics/shutterstock.com拡大hyotographics/shutterstock.com

 2014年のクリミア・東部紛争においてロシアは強引にクリミアを併合、またウクライナ東部地区の親露派武装勢力を支援し、彼らにドネツィク州及びルガンスク州に一方的に人民共和成立を宣言させた。その状況が今日までウクライナ危機として続いている。これまでの紛争により1万4000人が犠牲になったといわれている。現在、ロシアはベラルーシにも戦力を集結させ、米国に対してNATOの東欧拡大停止などを要求している。

 冒頭のミリー統参議長の発言の裏付けは、偵察衛星や電波情報、現地のヒューミント情報などを総合的に分析した結果だと思われる。侵攻が目前とは、具体的にはウクライナ国境付近の機甲部隊等の展開と活動、支援する砲兵部隊の展開位置、兵站施設の活動状況、司令部と第一線部隊指揮所間の通信量と内容などをみて軍事的合理性から分析した結果である。

 一方、ウクライナ側もただ手をこまねいているだけではない。西側諸国から兵器の援助を受け、防御施設を構築、軍や民兵を訓練しロシア軍の侵攻に対処しようとしている。ナゴルノ・カラバフ紛争においてアゼルバイジャン軍がアルメニア軍の戦車や陣地を自爆ドローンにより攻撃し勝利した戦例がある。この紛争に使用された自爆ドローンと同型のものをウクライナが多数購入したとの情報もある。


筆者

山下裕貴

山下裕貴(やましたひろたか) 元陸将、千葉科学大学客員教授

1956年宮崎県生まれ。1979年陸上自衛隊入隊、自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などを歴任し2015年に退官。現在は千葉科学大学客員教授、日本文理大学客員教授。著書に『オペレーション雷撃』(文藝春秋)など。アメリカ合衆国勲功勲章・功績勲章を受章。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

山下裕貴の記事

もっと見る