花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
本当の闘争はこれからだ。元学生運動リーダーは「成長と分配」の二兎を実現できるか
2019年、抗議デモが世界に吹き荒れた。香港、インド、エクアドル、ボリビア、イラン、イラク、アルジェリア、スーダン、レバノン等々。その中の一つ、同年10月に起きたチリの100万人規模のデモは、その後世界を席巻したパンデミックの中、立ち消えになったかと思われたが、実はそうでなかった。それは、2年の間、チリ国内にくすぶり続け、ついに昨年12月、大統領選挙で勝利しその代表、ガブリエル・ボリッチ氏を政権トップに送り込むことに成功した。デモ参加者の執念が実ったともいえるが、別の見方をすれば、それだけチリの矛盾が大きかったともいえる。その矛盾とは何か。
2019年、デモは、ほんの小さなことがきっかけで起きた。チリの首都サンチアゴの地下鉄。同年10月、その料金が30ペソ(約4円)値上げされた。公共料金の値上げや税金の引き上げが大きなデモに発展することは、パリの黄色いベスト運動を例にとるまでもなくよくある。パリの場合、それは燃料税の引き上げだった。
サンチアゴで起きた抗議デモは瞬く間にチリ全土に拡大、時のセバスティアン・ピニェーラ政権は、たまらず軍の投入に踏み切ったが効果なく、政府支出の増加など次々と譲歩を迫られていく。結局、デモは何日もチリ全土を覆い、教会や地下鉄は焼け焦がれ公共施設は略奪のほしいままにされた。政権は、2年半後に憲法改正を行うこと等を約束し、事態はようやく収束に向かって行く。
それからしばらくしてチリでも新型コロナが蔓延。政府は、ラテンアメリカで最大規模のGDP比14%に及ぶ財政支出で国民を支え、債務残高は一気に25.6%(2018年)から37.3%(2022年予測)に膨れ上がった。その間、国内は再びデモに見舞われることなく、表面上は平穏に時間が過ぎていった。いや、新型コロナに翻弄され、それどころでなかったというべきだろう。デモが燃え盛ることとなった国民の不満の大本は何ら解消されることなく残っていた。
サンチアゴの地下鉄料金値上げは、国民の不満に火をつけたに過ぎない。不満こそが問題の根幹だ。それは一言でいえば所得格差だ。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?