花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
本当の闘争はこれからだ。元学生運動リーダーは「成長と分配」の二兎を実現できるか
ラテンアメリカはどこも所得格差が大きい。一部の特権階級が富を独占し、国民の多数を占める低所得層が貧困から脱出できない。この固定化された「社会の二層分化構造」こそがラテンアメリカの宿痾だ。
ラテンアメリカを見てすぐ気が付くのが、社会の構成員間の信頼の欠如だ。一言でいえば、国民が互いを信頼してない。社会が連帯を欠き、全体が一丸となって困難に立ち向かうとの気概がない。
その背景にあるのが、この「社会の二層分化」だ。富める者は他を顧みることなく益々富み、貧しさに苦しむ者はどんどん底辺に向かい落ちていく。それが、ラテンアメリカの長い歴史の中で社会の構造として組み込まれ、今や、容易に突き崩すことができない。社会がそうであれば、どうして構成員間に連帯意識が生まれ、社会の中に一体感が生まれよう。
2000年代、ラテンアメリカは台頭する新興国の代表のように言われ、その経済発展が注目された。何のことはない、時の資源価格高騰で底上げされた財政のバラマキが背景にある。財政のバラマキで作られた成長なら、バラマキが止まれば成長も鈍化する。案の定、2010年代後半、資源価格の下落とともに放漫財政は維持不能となり、成長は鈍化していった。
カネの切れ目が縁の切れ目、潤沢な資金が原資となり、財政支出の恩恵に預かっていた国民は、バルブの元が閉められるに及び、それまで隠されていた「社会の二層分化」が再び顔を出して来るのに気付かざるを得ない。「社会の二層分化」は、単にカネのバラマキで覆い隠されていたに過ぎなかった。社会の底にたまった根本問題は、何ら手を付けられることなくそのまま残存していた。ブラジルで2016年、左派ジルマ・ルセフ大統領が倒れ、ボリビアで2019年、左派エヴォ・モラレス大統領が失脚した。
チリもその御多分に漏れず、OECD加盟国で最も所得格差が大きい。ジニ係数は0.460と、日本の0.34を大きく上回る(1に近いほど格差が大きい)。しかしチリの場合、事情はもう少し複雑だ。