谷田邦一(たにだ・くにいち) ジャーナリスト、シンクタンク研究員
1959年生まれ。90年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て、2021年5月に退社。現在は未来工学研究所(東京)のシニア研究員(非常勤)。主要国の防衛政策から基地問題、軍用技術まで幅広く外交・防衛問題全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識を生かし、安全保障問題の新しいアプローチ方法を模索中。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
基地がないのに脅かされる暮らし―全国の住民リレーで実態明かし、解決の糸口に
訪ねた先は中国・四国地方。爆音をまき散らす軍用機の大半は、岩国基地(山口県)と横田基地(東京都)の所属機だった。前者は戦闘攻撃機や電子戦機など約130機を抱えるアジア最大級の海兵隊・海軍の拠点。後者は十数機の輸送機を配備する空軍の拠点。大型エンジンを積む現代の軍用機の爆音はすさまじい。とりわけ被害が深刻なのは、広島・島根両県にまたがる広大な訓練空域の直下の地域だろう。
通称「エリア567」と呼ばれるこの空域は、他の訓練空域の大半が洋上にあるのに対し、なぜか陸上部に設置されている。人口が多い自治体でいえば、広島県北広島町や島根県浜田市がそこに含まれる。問題が起きるのは、米軍機が日本の航空法の最低安全高度(人口密集地は300メートル以上、それ以外の過疎地や海面上などは150メートル以上)を守らずに訓練しているせいである。
米軍側の理屈は、敵対勢力の対空レーダーを避けて敵地に侵入するような厳しい訓練をする必要がある、ということだろう。彼らには安保条約を履行する義務がある。だが住民には静かで安全な生活を営む権利がある。こちらは憲法や国内法で保障されている。
それを阻むのが、米軍に国内法の順守義務を免除している日米地位協定の壁だ。そうした弱みを逆手に取るかのように、過疎地や山中、島しょ部などで米軍機の低空飛行訓練があいついでいる。
北広島町は、標高1千メートル前後の山々が連なる山間地。町全体の8割が森林に覆われて過疎地が多く、そこが目をつけられた理由かもしれない。
同町は住民から米軍機の目撃情報を集めている。その回数は、厚木基地(神奈川県)から米空母艦載機約60機が2018年3月に岩国基地に移駐し終えたあと急増。同年度の飛行回数は、2年前と比べ1.5倍の1325回になった。1日平均で3回以上、軍用機が飛来した計算になる。
ふだんは戦闘攻撃機や電子戦機などが数機の編隊で現れ、ひどい時には高度約150メートル前後で町を横切ったり急上昇に転じたりするという。灰色の機体が現れるのは決まって東側の掛頭山(かけずやま)(標高1126メートル)の山頂付近。2機編隊の時もあれば4機の時もある。一昨年まで高木茂さん(66)が局長を務めた郵便局をめがけて一気に急降下し、すぐさま急上昇に転じる。
「長いと40分も、すさまじい爆音を地上にたたきつけて帰ります」と高木茂さんは語った。たまりかねて小型カメラやスマホを使って、そのひどさを記録し続けるようになった。撮りためた多数の「証拠品」の中から画像や動画を提供してもらった。この動画は2018年5月10日の撮影で、映っているのは岩国基地の戦闘攻撃機FA18とみられる。測定器の数値は110デシベル。2メートルの距離で聞く車のクラクションの音に相当する。
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