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独露の関係は複雑怪奇/ウクライナ緊張で問われる「盟主」の対応

緊張が長引くほどドイツ国内の亀裂を深め、西側陣営の足並みも乱れていく

高野 弦 朝日新聞社前ベルリン支局長

 緊張が高まるウクライナ問題で、ドイツの対応が注目されている。ウクライナを勢力圏内に置きたいロシアとは、ガスパイプラインでむすばれているだけではなく、人的、歴史的、イデオロギー的に密接な関係を築いてきた。いざ西側の同盟国がロシアと向き合うことになったとき、「欧州の盟主」としてどのような方針で臨むのか。2021年12月に発足したばかりのショルツ新政権は早くも正念場を迎えている。

ロシアの天然ガスが命綱

 ショルツ首相は2022年2月7日、ワシントンでバイデン米大統領と会談した。記者会見でバイデンが口にしたのは、ロシアとドイツを直接パイプラインでむすび、ロシアから天然ガスを輸入する「ノルドストリーム2」の計画だった。

 「ウクライナにロシアが侵攻した場合には、ノルドストリーム2はなくなることになる」。計画を中止することで、ロシアにとっての重要な収入源のひとつを絶つと宣言したのだった。

 一方のショルツは、米国と一致してロシアに向き合う姿勢を示したものの、ノルドストリーム2には直接触れずじまいだった。同計画は、おもにロシアとドイツの企業が資金を出し合って運営する事業で、命運を握るのは本来、許認可権を持つドイツ政府だ。

 ドイツは天然ガスの55%をロシアに頼る。ウクライナなどを経由するパイプラインに加え、2011年には独露を直接むすぶ「ノルドストリーム」が完成。2021年9月には併設する「ノルドストリーム2」の工事が完成し、あとはドイツ政府の認可を待つばかりとなっている。2022年末には稼働原発がゼロになり、さらに2030年の脱火力発電を目標に掲げるドイツの新政権にとって、代替エネルギーとして天然ガスはなくてはならない資源だ。

ガスパイプライン拡大ロシア・ドイツ間のガスパイプライン図。破線がノルドストリーム、白線がノルドストリーム2=shutterstock.com

 ドイツの外交関係者は「中東や米国からの液化天然ガス(LNG)で代替するとしても、ドイツには荷揚げする港が不足している。価格も高くつく。フクシマ(2011年3月、東日本大震災時の津波による東京電力福島第一原子力発電所)の事故のあと、原発が止まった日本はエネルギーの確保と貿易収支の赤字に苦労した。二の舞いは避けたい」と話す。

 ウクライナ情勢が緊迫して以降、英国はウクライナへの武器供与を決めた。オランダ、デンマークといった国々は東欧諸国に戦闘機やフリゲート艦を派遣。米国はすでに約3000人の兵士を東欧諸国やドイツに送り込んだ。

 一方のドイツは、NATO軍として、ロシアに近接するリトアニアに350人を追加派遣すると2月7日に表明したが、ウクライナに対しては同国からの再三の武器供与の要請にもかかわらず、ヘルメット5000個を供与するにとどまっている。

 旧東独製の武器をいまだに使用しているエストニアが、支援の一環としてウクライナへの榴弾(りゅうだん)砲の供与を検討しているが、ドイツ政府がゴーサインを出さず、宙に浮いている。これには国内からも「(紛争地への武器輸出を禁じた)基本方針は正しいが、その蔭(かげ)に安易に身を隠すのは間違いだ」(シュピーゲル誌)と批判の声が上がる。

 ロシアに強く出れば、自分の首を絞めることになる。そんな思いが、政府に同盟国と歩調を合わせることをためらわせている。

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筆者

高野 弦

高野 弦(たかの・ゆづる) 朝日新聞社前ベルリン支局長

 1966年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。宇都宮、浦和支局、東京本社経済部、アジア総局(バンコク)、ニューデリー支局などを経て、2016年から2019年までベルリン支局長。この間、経済部次長、国際報道部次長・部長代理を務める。著書に「愛国とナチの間~メルケルのドイツはなぜ躓いたのか」(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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