谷田邦一(たにだ・くにいち) ジャーナリスト、シンクタンク研究員
1959年生まれ。90年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て、2021年5月に退社。現在は未来工学研究所(東京)のシニア研究員(非常勤)。主要国の防衛政策から基地問題、軍用技術まで幅広く外交・防衛問題全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識を生かし、安全保障問題の新しいアプローチ方法を模索中。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
不釣り合いなままの日米関係―国民の暮らし守る責務を自覚し、解決へ努力を
かつては米軍機がどこを飛んで訓練しているのかさえ、被害地の住民たちにはわからなかった。そのベールをはがしたのは朝日新聞の1994年の特報記事だ。
奈良県十津川村で91年、米軍機が林業用のワイヤを切断する事故が起き、情報公開請求で開示された米国の事故調査報告書が明らかになった。報告書には、四国や近畿、東北などの山間部に海軍や海兵隊が使う4本の訓練ルートが記載されていて、目標をねらった攻撃や地形に沿って飛ぶ訓練をしていることが判明した。
各ルートは四国を東西に通るオレンジ、東北を南北に縦断するグリーンなどと色分けされ、ダムや発電所などの基点ごとに通過高度まで記載されていた。その高さは日本の国内法で定める500フィート(約150メートル)のものが少なくない。訓練が、敵陣地に設置された対空レーダーや対空ミサイルを破壊する戦術飛行であることも裏付けられた。
米軍活動を監視する市民団体「リムピース」もこの調査に加わり、96年には年間で約千機を超す米軍機が低空飛行を行っており、その6割近くが四国のオレンジルートに集中していることをつかんだ。調査を担当した頼(らい)和太郎編集長(2021年12月死去)は生前、「ルートは随時、微調整されているようだが、飛行目的やその頻度は今も変わっていない」と話していた。
しかし低空飛行訓練を取り巻く国内の風向きは、このところ大きく変わろうとしている。
昨年の年末年始のことだ。沖縄本島の西にある慶良間(けらま)諸島で、編隊を組んだ米軍の特殊作戦機が超低空で訓練をするようになった。その後も辺戸岬など本島の各地でも目撃されるようになり、沖縄県議会は全会一致で抗議声明を出す事態になっている。沖縄の周辺には米軍用の訓練空域が20か所も提供されているのに、いずれの低空飛行もこれらの訓練空域外で行われている。
従来なら、住民たちから激しい抗議があった場合、99年の日米合同委員会の合意にもとづき、日本の防衛省や外務省は米軍側に遺憾を伝え、再発防止策を求めるという流れになるところだ。ところが菅義偉政権以来、防衛相をつとめる岸信夫氏は2021年1月の記者会見で、次のように答えた。
「米軍による飛行訓練は、パイロットの技能の維持・向上を図る上で必要不可欠」
「日米安保条約の目的達成のための重要な訓練」
耳を疑うような発言には、まるで米軍の逸脱行為を容認するかような響きがある。国民の暮らしを守る立場の大臣でありながら、その自覚に欠けているのではないかとの疑問さえ生じかねない。
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