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「すでに『移民社会』の日本」を直視できない私たち~髙谷幸・東京大准教授に聞く(上)

多文化共生の作法

松下秀雄、石川智也 「論座」編集部

「単純労働者は受け入れない」という建前と現実と

 ――日本の外国人受け入れの特徴は「単純労働者は受け入れない」と「定住化を阻止する」の二つだと指摘していますね。これもその「移民政策はとらない」政策の現れでしょうか。

 「移民政策はとらない」という方針はそれらの帰結と言った方がよいかもしれません。単純労働者を受け入れない方針は1960年代から一貫していましたが、1989年の入管法改正の議論のなかであらためて確認されました。

 日本はヨーロッパなどと比べると戦後の高度成長期に外国人の大量の受け入れをしませんでした。しかし1980年代の経済成長で外国人労働者が急速に増えたことで、その対応が求められることになりました。そこでは、この問題で先行するヨーロッパ諸国、特にドイツの事例などが参照されました。

 当時は、「外国人労働者は短期で受け入れたとしても自然と定住し、家族を呼び寄せ、二世も含めて大人数が長期間滞在することになる。そうなると例えば不況時の失業問題など、色々な社会問題を引き起こす存在になる」というかたちの議論が中心になりました。

 これは、社会学者の梶田孝道さん(故人)が議論されていることですが、ひとたび受け入れたら必然的に定住につながるので、単純労働者を受け入れないという方向に議論が進んだわけです。これは、後発受け入れ国として、先行するヨーロッパの「失敗」をある意味で過剰学習したのだと指摘されています。実際には、ヨーロッパの受け入れは「失敗」と一言で片付けられるものではありません。

 ――ただ、現実には現在、コンビニでも建設現場でも農業の現場でも、たくさんの外国人が働いています。建前と実態がその後、大きく乖離していったのでしょうか。

 実は初めから乖離していたんですね。というのも、1989年の入管法改正の際も、外国人労働者がすでに目に見えて増えていたからこそ、そうした議論が起きたわけです。

東京出入国在留管理局=東京都港区、朝日新聞社ヘリから拡大東京出入国在留管理局=東京都港区、朝日新聞社ヘリから

 当時はいわゆるオーバーステイ(在留許可の期限を超過した滞在)で働いている外国人が増えていることが問題視され、何らかの対策が必要だということになりました。しかし、単純労働者を受け入れないという国の方針は変えないまま、まず日系人を受け入れ、新たに「研修」という在留資格を独立に設けてそれを1993年の技能実習制度につなげました。

 あくまでも単純労働者ではないという体裁ですから、日系人は親族訪問、技能実習生は技術移転を通じた国際貢献という名目で受け入れることにしました。よく指摘されるように「サイドドア」から受け入れたということです。建前と実態をさらに乖離させていく方向の制度が作られ、そこから30年間、乖離がより拡大していったと言えると思います。


筆者

松下秀雄、石川智也

松下秀雄、石川智也(まつした・ひでお、いしかわ・ともや) 「論座」編集部

【松下秀雄】 1989年、朝日新聞社入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。 【石川智也】 1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発、内閣府など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)等。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです