対ロ制裁のカギを握りながら、リーダーシップを発揮できないショルツ首相
2022年02月13日
ウクライナを巡る情勢が息詰まる展開を見せる中、ドイツの対応が注目を集めている。ドイツは、西側同盟の重要な一員か、あるいは、その結束を乱す波乱要因か。同盟の結束なくしてロシアを牽制することはできない。ドイツの対応がカギを握る。
侵攻を押しとどめようとすれば、西側はロシアに対し結束して立ち向かわねばならない。もしロシアが侵攻に踏み切るようなことがあれば、西側は結束してロシアに制裁を科し耐えがたいダメージを与える。そうやって初めてロシアを牽制することができる。西側に少しの乱れもあってはならない。
ところがここに来てドイツの動きがカギになってきた。米国が、対ロ制裁を突き付けロシアをけん制するとき、ドイツは西側のなくてはならないキープレーヤーだ。そのドイツがふらついている。ドイツは、米国と一緒になって対ロ制裁に踏み切るつもりがあるのか、それとも、西側の輪を乱し、戦線の乱れを引き起こすつもりか。
ドイツの動きは日本にとっても他人事でない。日本も、米国から対ロ制裁に参加するよう要請されている。
先頃、ドイツ政府が下した一つの決定が波紋を広げている。ウクライナの武器支援要請に対し、ドイツはヘルメット5000個を供与すると発表した。その何とも間の抜けた対応に、ウクライナ政府は怒りとも落胆ともつかない反応を隠そうとしない。
頑強なロシア戦車が、国境を挟みすぐその先で地響きを立て走り廻っている。明日にも戦闘が始まるかもしれず、そうなればウクライナ軍はロシア軍の猛攻に体を呈し抵抗しなければならない。その時に、頼りになるはずの隣国がヘルメットをプレゼントか、というわけだ。
そればかりでない。ドイツはエストニアからの対ウクライナ武器供与にも難色を示す。エストニアは、ウクライナに旧式ながら同国所有の榴弾砲を提供する旨申し出たが、ドイツがこれに難色を示した。この榴弾砲はもともと旧東ドイツが製造し、それがフィンランド経由でエストニアに輸出された。つまり、榴弾砲の原産地はドイツということになる。
ドイツには、攻撃用の殺傷兵器を紛争地域に供与してはならない、との規則がある。過去を踏まえ、同じ過ちを繰り返すまいとの反省に根差す。
だからといって、ヘルメットでなければならないことはないが、ドイツはドイツなりにこの規則を踏まえ、ヘルメット供与を決定した。エストニアの榴弾砲も、この規則を厳格に解釈すれば、攻撃兵器は仮に第三国を経由するものであっても許されてはならないことになる。ヘルメットも榴弾砲も、ドイツの論理は、それはそれで分からなくはない。特に、我々日本人にはこの説明は理解できる。できないことはできないのだ。
しかし、同盟の結束を固め少しの乱れも見せまいとする米国にすれば、ドイツは、同盟を何と考えているのか、ということだろうし、ましてやこれから、戦争に突入していこうというウクライナからすれば、この期に及んで何と間の抜けたことを、ということだ。
同じことは、対ロ制裁のカギを握るノルドストリーム2についても言える。ノルドストリーム2とは、ロシアからバルト海を通ってドイツに至る天然ガス輸送のパイプラインで、既にパイプライン自体は完成、後はドイツ政府の認可を待つばかりになっている。
米国は、もしもロシアの侵攻がある場合は、このパイプラインの稼働を止め、ロシアの天然ガス輸出に打撃を与えたいとする。もう一つの世界の銀行送金システム運営機関、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア締め出しとともに、ロシア経済に打撃を与えうる重要な制裁手段だ。ところがここでも、ドイツの姿勢が定まらない。
ショルツ首相は、政権発足当初、ノルドストリーム2は「経済プロジェクトであり、政治が絡むものではない」とした。これはメルケル政権の立場を踏襲したものだが、言うまでもなく、このプロジェクトは政治そのものであり、これを単なる経済的なものと割り切るわけにはいかない。
ショルツ首相の発言には、米国だけでなく、ドイツ国内からも異論が噴出し、1月後半になり、やむなくショルツ氏は立場を修正、「対ロ制裁はあらゆる選択肢を含む」とした。無論、本音が稼働推進であることに変わりはない。
背景に、ドイツが天然ガス輸入の55%をロシアに依存するとの事情がある(EU全体でも4割をロシアに依存する)。
そもそも、既存秩序を覆そうと狙うロシアに国の根幹であるエネルギー供給を依存することがおかしい、との議論はありうる。しかし、日本だって、石油を中東に依存している。エネルギー供給はたとえてみれば人体にとっての血液みたいなもので、血管を締められればひとたまりもないから血管は複数確保しておくべきだ、というのはその通りだが、実際は、なかなかそうもいかない。
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