花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
対ロ制裁のカギを握りながら、リーダーシップを発揮できないショルツ首相
ウクライナを巡る情勢が息詰まる展開を見せる中、ドイツの対応が注目を集めている。ドイツは、西側同盟の重要な一員か、あるいは、その結束を乱す波乱要因か。同盟の結束なくしてロシアを牽制することはできない。ドイツの対応がカギを握る。
ウクライナ国境周辺に配備された10万のロシア軍が不気味な動きを見せる中、米ロの息詰まる神経戦が繰り広げられている。果たして、ウクライナ侵攻は回避されるのか、それともロシアは侵攻に踏み切るか。
侵攻を押しとどめようとすれば、西側はロシアに対し結束して立ち向かわねばならない。もしロシアが侵攻に踏み切るようなことがあれば、西側は結束してロシアに制裁を科し耐えがたいダメージを与える。そうやって初めてロシアを牽制することができる。西側に少しの乱れもあってはならない。
ところがここに来てドイツの動きがカギになってきた。米国が、対ロ制裁を突き付けロシアをけん制するとき、ドイツは西側のなくてはならないキープレーヤーだ。そのドイツがふらついている。ドイツは、米国と一緒になって対ロ制裁に踏み切るつもりがあるのか、それとも、西側の輪を乱し、戦線の乱れを引き起こすつもりか。
ドイツの動きは日本にとっても他人事でない。日本も、米国から対ロ制裁に参加するよう要請されている。
先頃、ドイツ政府が下した一つの決定が波紋を広げている。ウクライナの武器支援要請に対し、ドイツはヘルメット5000個を供与すると発表した。その何とも間の抜けた対応に、ウクライナ政府は怒りとも落胆ともつかない反応を隠そうとしない。
頑強なロシア戦車が、国境を挟みすぐその先で地響きを立て走り廻っている。明日にも戦闘が始まるかもしれず、そうなればウクライナ軍はロシア軍の猛攻に体を呈し抵抗しなければならない。その時に、頼りになるはずの隣国がヘルメットをプレゼントか、というわけだ。
そればかりでない。ドイツはエストニアからの対ウクライナ武器供与にも難色を示す。エストニアは、ウクライナに旧式ながら同国所有の榴弾砲を提供する旨申し出たが、ドイツがこれに難色を示した。この榴弾砲はもともと旧東ドイツが製造し、それがフィンランド経由でエストニアに輸出された。つまり、榴弾砲の原産地はドイツということになる。
ドイツには、攻撃用の殺傷兵器を紛争地域に供与してはならない、との規則がある。過去を踏まえ、同じ過ちを繰り返すまいとの反省に根差す。
だからといって、ヘルメットでなければならないことはないが、ドイツはドイツなりにこの規則を踏まえ、ヘルメット供与を決定した。エストニアの榴弾砲も、この規則を厳格に解釈すれば、攻撃兵器は仮に第三国を経由するものであっても許されてはならないことになる。ヘルメットも榴弾砲も、ドイツの論理は、それはそれで分からなくはない。特に、我々日本人にはこの説明は理解できる。できないことはできないのだ。
しかし、同盟の結束を固め少しの乱れも見せまいとする米国にすれば、ドイツは、同盟を何と考えているのか、ということだろうし、ましてやこれから、戦争に突入していこうというウクライナからすれば、この期に及んで何と間の抜けたことを、ということだ。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?