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ふらつくドイツ――ウクライナ危機に対し、同盟の一員として役割を果たせるか

対ロ制裁のカギを握りながら、リーダーシップを発揮できないショルツ首相

花田吉隆 元防衛大学校教授

拡大ウクライナ情勢について協議した後、記者会見するショルツ独首相(右)とマクロン仏大統領。ロシアが侵攻した場合「代償はとても高くつく」と警告した=2022年1月25日、ベルリン

制裁の要「ノルドストリーム2」でもふらつき

 同じことは、対ロ制裁のカギを握るノルドストリーム2についても言える。ノルドストリーム2とは、ロシアからバルト海を通ってドイツに至る天然ガス輸送のパイプラインで、既にパイプライン自体は完成、後はドイツ政府の認可を待つばかりになっている。

 米国は、もしもロシアの侵攻がある場合は、このパイプラインの稼働を止め、ロシアの天然ガス輸出に打撃を与えたいとする。もう一つの世界の銀行送金システム運営機関、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア締め出しとともに、ロシア経済に打撃を与えうる重要な制裁手段だ。ところがここでも、ドイツの姿勢が定まらない。

 ショルツ首相は、政権発足当初、ノルドストリーム2は「経済プロジェクトであり、政治が絡むものではない」とした。これはメルケル政権の立場を踏襲したものだが、言うまでもなく、このプロジェクトは政治そのものであり、これを単なる経済的なものと割り切るわけにはいかない。

 ショルツ首相の発言には、米国だけでなく、ドイツ国内からも異論が噴出し、1月後半になり、やむなくショルツ氏は立場を修正、「対ロ制裁はあらゆる選択肢を含む」とした。無論、本音が稼働推進であることに変わりはない。

拡大ロシアとドイツの間の天然ガスパイプライン「Nord Stream 2」のルートのイメージ図(Frame Stock Footage/Shutterstock.com)

国家のエネルギーをロシアに依存する事情

 背景に、ドイツが天然ガス輸入の55%をロシアに依存するとの事情がある(EU全体でも4割をロシアに依存する)。

拡大ロシアのプーチン大統領=2022年2月7日、モスクワ
 ドイツは2011年の福島原発事故を受け原発からの脱却を決めた。今年初め、3基の原発を停止、残りの原発も今年中に停止させることになっている。脱炭素を考えれば、天然ガス比率を上げたいところだが、そうするとロシアからの輸入は不可欠だ。もし輸入が細るようなことがあれば、既に値上がり著しい天然ガス価格がさらに高騰しかねず、そうなれば、インフレも益々深刻になっていくだろう。

 そもそも、既存秩序を覆そうと狙うロシアに国の根幹であるエネルギー供給を依存することがおかしい、との議論はありうる。しかし、日本だって、石油を中東に依存している。エネルギー供給はたとえてみれば人体にとっての血液みたいなもので、血管を締められればひとたまりもないから血管は複数確保しておくべきだ、というのはその通りだが、実際は、なかなかそうもいかない。

拡大2月4日、ロシアの空軍基地で離陸のため滑走路に向かう2機の爆撃機。ロシア国防省が公表した
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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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