産業の「知識化」への適合と、政策決定の透明化、税制への信頼がカギ
2022年02月16日
改革への考え方の相違は、現状の社会と社会システムとの関係への認識の差から生まれる。
改革とは、一般的に「社会の変動や危機に対応し、あるいは適合するように社会的、経済的、政治的諸制度や諸組織、諸政策などを部分的に改善すること」「社会の基本的な仕組みの全面的変革である革命とは区別される。改革は、既存体制の許容範囲内で改善や改良を重ね、場合によっては変革主体の要求の一部を充足することになるが、他方体制の全面的変革や崩壊を防止する」ことである(ブリタニカ国際大百科事典)。
現代の日本に当てはめれば、日本国憲法の枠内(既存体制の許容範囲内)で、社会システム(社会的、経済的、政治的諸制度や諸組織、諸政策)について、現実の課題を解決する(社会の変動や危機に対応し、あるいは適合する)よう、より良くする(部分的に改善する)ことになろう。
また、この定義からすれば、自由民主党の憲法改正案は、憲法という「社会の基本的な仕組みの全面的変革」をもたらすことから、改革でなく「革命」と称するのが適当となる。
現状の社会と社会システムの関係への認識は「それらが適合している」「それらが適合していない」の二つに分かれる。もちろん、前者であっても改善がまったく不要ということでなく、状況に応じた修正を重ねることで、社会システムを根本から変える必要はないという立場である。他方、後者は社会システムを根本から変えなければならないという立場であるが、あくまで憲法の定める諸原則の枠内という前提である。
「適合している」との認識であれば、改革は不要との結論に至る。様々な改善や修正は必要であっても、社会システムを根本から改める必要はない。
社会の諸問題は、改善や修正、運営の不十分さから発生しているのであって、それらを改めれば自ずと社会システムが機能する。年金システムを例にすれば、現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせ、給付水準を調整する「マクロ経済スライド」の導入によって、年金システムを根本的に改める必要はないとの認識が、これに当たる。
「適合していない」との認識であれば、改革は必要との結論に至る。社会システムの前提が大きく変化しているため、改善や修正で対応できず、根本的にシステムを立て直す必要がある。社会の諸問題は、社会システムの前提が変化したことから発生しているのであって、ゼロベースで立て直すことで社会システムが機能する。年金システムを例にすれば、人口増加を前提として構築されている以上、人口減少時代においては改善や修正で対応できず、税や社会保険の役割を含めて、人口減少を前提とした年金システムに改めなければならないという認識が、これに当たる。
筆者は「改革が必要」との結論である。すなわち、現行の社会システムで前提とされていたことがことごとく覆ってしまったため、現状の社会と社会システムとの間に大きな断裂が生じている。多くの社会課題が社会システムの機能不全で発生し、その原因は社会システムの前提条件が真逆になったことにある。
具体的には、社会システムの三大前提「人口増加」「経済成長」「小さな環境制約」が、真逆の前提「人口減少」「経済成熟」「大きな環境制約」になっている。詳しくは、拙著『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』(現代書館)で根拠を示して論じたので、ご関心のある方はご参照いただきたい。
平成の30年間、様々な改革が提案され、実施されてきた。政治改革、行政改革、財政改革、経済改革、規制改革、税制改革、金融改革、社会保障改革、教育改革等々。
国や自治体だけでなく、企業など社会のあらゆる場所で改革が唱えられてきた。そのため、当初は魅力的に見えた改革の言葉も次第に色あせ、「改革疲れ」という言葉が出てくるようになった。一方、2021年の総選挙で改革を訴えた日本維新の会が議席を伸ばしたように、改革が必要との考えも根強い。
しかし、改革といってもその中身は一様でなく、相反する改革が同時に行われることもあった。例えば、第二次橋本龍太郎内閣が掲げた「六大改革」のうち、財政構造改革と金融システム改革は、結果的に相反して、金融システムへの打撃を大きくした。
国庫からの歳出の抑制を定めた財政構造改革法は、金融システム改革の進展によって明らかになった金融機関の不良債権に対し、公的資金の注入をためらわせ、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行など大手銀行等も潰し、金融システムに危機をもたらした(西野智彦『平成金融史』中公新書)。
平成の改革を個別にみれば、経済改革、財政改革、憲法改革の3つの方向性に大きく分かれる。明確に三分類できるわけでなく、複数の方向性を合わせもつ改革は多くあるが、その狙いや効果から見て、だいたい3つに分けられる。
経済改革は、企業活動の自由性を拡大し、新たな産業を生み出すことで、経済成長を狙う。サプライサイドの強化を図る新自由主義の考え方に基づく。
例えば、第二次安倍晋三内閣が発足した直後、2013年の通常国会の施政方針演説において、安倍首相は「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すために「聖域なき規制改革」を進め、「企業活動を妨げる障害を、一つひとつ解消」すると表明した。
財政改革は、公共サービスの見直しで歳出を抑制し、増税や公共料金の値上げ等によって歳入を増加させ、財政再建を狙う。財政均衡を重視する健全財政主義の考え方に基づく。
例えば、橋本首相は1997年6月の財政構造改革会議において「21世紀に諸外国に例を見ない超高齢化社会を迎えようとしている現在、今のままの財政構造を放置し、いたずらな財政赤字の拡大を招けば、我が国の経済・国民生活が破綻することが必至」との認識を示している。
憲法改革は、行政や経済活動等の透明性を高め、民主的なガバナンスを拡大強化することで、憲法理念の実現を狙う。国民主権や公正な行政、基本的人権を擁護する民主主義の考え方に基づく。
例えば、村山富市首相は1994年9月の所信表明演説で、地方分権について「住民が身近な地域の問題をみずから考え、地域の政治や行政に参加して課題解決にかかわっていくこと、また住民の声が政治に反映されていくというシステムを生み出すことこそが、この国に真の民主主義を定着させていく道」と述べ、「国と地方の役割分担とそれぞれの行政のあり方を見直し、権限移譲、国の関与の廃止や緩和、地方税財源の充実等を進めることが必要」として、関連法案を提出するとした。
なお、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください