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ドイツ新政権、日本との連携に期待~対中政策に変化の兆し

既存の国際秩序が危機に瀕する中、世界第3位と4位の経済大国の結束が問われている

高野 弦 朝日新聞社前ベルリン支局長

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 欧州の盟主ドイツと中国の間にすきま風が吹き始めている。閉鎖的な中国市場へのドイツ産業界のいら立ちと経済安全保障への懸念、そして人権抑圧に対する国内世論の反発が背景にある。16年間にわたるメルケル前政権時に深まった両国の関係は、転機を迎えている。

リトアニア擁護で結束

 「中国が民主主義や人権、EUの結束を脅かしていることに対して、ドイツ政府は断固反対の声を上げていく」。2022年1月26日にベルリンの中国研究シンクタンクが主宰したシンポジウム。外務省のトビアス・リントナー政務次官はこう息を巻いた。

 この発言の翌日、欧州連合(EU)は、加盟国のリトアニアに差別的な貿易措置をとったとして、中国を世界貿易機関(WTO)に提訴した。旧ソ連時代に権威主義国家による抑圧を経験したリトアニアは、中国からの圧力を受ける台湾にシンパシーを寄せ、2021年11月に首都に台湾代表処(代表部に相当)の開設を認めた。これをおもしろく思わない中国はリトアニア製品の輸入を拒否したり、EU企業に対してリトアニア製の部品を使わないように圧力をかけたりするなどの対抗措置に乗り出していた。

 小国といえども加盟国に対する差別的な措置は許さない――。WTOへの提訴は、自らの市場を政治的取引の道具に使う中国に対して、欧州が一致団結して異議を申し立てたものだ。中国市場をお得意先とするドイツの産業界には、正面から向き合うことに慎重な声もあったという。しかし、最終的には「とるべき措置」に踏み出した。

メルケル時代の蜜月から変化

 「信号が赤になった~新政権は前政権に比べて中国に厳しい態度で臨む。そして経済的な依存を減らしていく」。独シュピーゲル誌は2022年2月5日号でこんなタイトルを付けた記事を掲載した。

 メルケル前首相は、ウイグル民族の抑圧や香港の自治などの問題について、いつも、閉ざされたドアの向こうで中国の権力者と話したがった。対中国政策の真ん中にあったのは、貿易だった。ショルツ政権はこれを変えようとしている――そうした内容だ。

 メルケルも当初は公の場で人権重視の姿勢を示していた。2007年にはチベットのダライ・ラマ14世をベルリンに招き、対話を試みた。だが、これが中国政府の逆鱗(げきりん)に触れ、ビジネスマンのマルチビザの発給が事実上凍結されてしまう。以降、訪中のたびに反体制派の人々とは会うものの、メディアの前で派手に演出することは控えた。外交では経済が中心となり、貿易は拡大の一途をたどる。2016年には対中貿易が対米貿易額を上回り、この年から4年連続でドイツは世界最大の経常黒字国となった。

習とメルケル拡大ドイツ・ハンブルクで開幕したG20サミットで、習近平中国国家主席(左)を出迎えたメルケル首相(当時)=2017年7月7日、代表撮影

 こうした蜜月のありように、最初に異議を唱えたのは、中国との関係強化の果実を享受してきたはずのドイツ産業連盟(BDI)だった。2019年1月、対中外交についての提言書の中で中国を「体制上のライバル」と位置づけたうえで、外国企業に対する出資制限や技術移転の強制をやめるよう求めた。背景にあったのは、ロボットなど最先端技術を持つドイツ企業を中国企業が買収する一方、中国側がいつまでたっても規制の緩和に動かなかったことだ。「体制上のライバル」という言葉は、その後、EUの声明文やドイツ国内の政党の公約に広く使われていく。

 政府は2020年9月、インド太平洋地域への外交方針を示したガイドラインを発表する。「人権と法の支配の推進」「ルールに基づく、公正で持続可能な自由貿易の強化」を前面に掲げるとともに、中国が進める一帯一路構想にも批判の矛先を向けた。途上国のインフラ整備にあたって返済が難しい融資を行い、外国の資産を中国側が摂取する「債務のわな」に警鐘をならしたのだ。さらに2021年6月には、大手企業に対し、取引先を含めて人権や環境をないがしろにしていないかのチェックを義務づけ、是正措置を講じない場合には巨額の罰金を科する法案を成立させた。中国が念頭にあることは明らかだった。

 世論も厳しさを増している。ドイツ公共放送ARDが2022年1月に発表した調査結果によると、「この国は信用できますか?」との問いに対して、「中国」を相手に肯定した人の割合はわずか7%だった。2019年の28%から大きく減少し、足元で欧州の安全保障を揺るがすロシア(28%→17%)をも下回る結果となった。2022年2月3日公表の調査では、北京での五輪開催を国際社会が認めたことについて、「誤りだった」とした割合が66%に達し、「正しかった」の15%を大きく上回った。批判的にみる最大の理由は「中国国内の政治的な状況」だった。

 BDIの提案から2カ月後、EUは中国の人権状況や閉鎖性を問題視する声明を発表。メルケルが奔走して合意にこぎつけた中国との投資協定について、2021年5月に凍結を決定した。2021年12月には一帯一路計画に代わる欧州主導の新たなインフラ整備計画もぶち上げたところだ。

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筆者

高野 弦

高野 弦(たかの・ゆづる) 朝日新聞社前ベルリン支局長

 1966年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。宇都宮、浦和支局、東京本社経済部、アジア総局(バンコク)、ニューデリー支局などを経て、2016年から2019年までベルリン支局長。この間、経済部次長、国際報道部次長・部長代理を務める。著書に「愛国とナチの間~メルケルのドイツはなぜ躓いたのか」(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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