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ウクライナ侵攻、世界はどこで道を間違えたのか

「熊が来る」が起きた背景を探る

塩原俊彦 高知大学准教授

 2022年2月24日、ウラジーミル・プーチン大統領はテレビ演説し、そのなかで、「国際連合憲章第7編第51条に従い、ロシア連邦評議会の認可を得て、本年2月22日に連邦議会が批准したドネツク人民共和国(DNR)およびルガンスク人民共和国(LNR)との友好および相互援助に関する条約に基づき、特別軍事作戦を実施する決定を下した」と語った。

 さらに、「その目的は、8年間キエフ政権によって虐待や大量虐殺にさらされてきた人々を保護することだ。そしてこの目的のために、我々はウクライナの非軍事化と非ナチ化をめざし、ロシア連邦の市民を含む一般市民に対して数々の血生臭い犯罪者たちを裁きにかけるつもりだ」と語ったのである。

プーチン 素材ID 20220224TROS0018A拡大ロシア国民にウクライナでの軍事作戦の開始を告げるプーチン大統領(ロシア大統領府公式ページより、2022年2月24日)

 この発言のなかで、「非軍事化」と「非ナチ化」は意味深長なものである。「非軍事化」は単に武装解除するというものではない。北大西洋条約機構(NATO)を1ミリでも東方に拡大させないために、ロシア軍の力でウクライナのいまの軍事力を圧殺するということらしい。そのためには、ウクライナ軍とその軍備を撤廃し、ウクライナは明らかに、ロシアと西側の間の非武装緩衝地帯のようなものにしなければならないという決意が込められている。いまの政権を、NATO加盟を永久に放棄する政権に交代させなければならないということでもあろう。ただ、「領土を占領することは考えていない」とした。

 もう一つの「非ナチ化」という概念はわかりにくい。Entnazifizierungというドイツ語をロシア語化したもので、戦後のドイツとオーストリアの社会、文化、報道、経済、教育、法学、政治からナチスの影響を排除することを目的とした一連の措置を指す。なぜプーチンがそんなことを言い出したかは後述するが、彼自身の言葉で言えば、「NATOの主要国は、自分たちの目的を達成するために、ウクライナの極端なナショナリストやネオナチを支援している」という。そのナショナリストやネオナチをつかまえて裁こうというのである。

キエフへの攻撃shutterstock.com拡大キエフへの攻撃(2022年2月24日)=Giovanni Cancemi/shutterstock.com

 そして、いま現実にロシアに全面侵攻が行われ、ウクライナによる抵抗がつづいている。

 筆者は、法律に知悉(ちしつ)しているプーチンが全面的侵攻に出るとは考えてこなかった。24日の演説を聞いても、その思いは変わらなかった。だが、そうではなかった。「熊が来る」という米国政府の予測が現実になったことになる。筆者の不明を恥じなければならない。それだけでなく、読者にも謝罪しておきたい。

 ただ、「ロシア悪し」という世界中に広まりつつある声に対して、むしろ冷静になることを求めたい。彼の暴力は非難に値するが、それだけでは問題は解決しない。どこで世界は「道を間違えたのか」を探ることでしか、この問題を本質的なところから理解することはできないと思う。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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