米国は、中国は、どう動くのか。日本はどう考えるべきか
2022年03月02日
宣戦布告がないまま、力で他国の主権を侵害し現状を変えようとするロシアの暴挙は徹底的に糾弾されなければならない。また、残念であるが、そのような無法な行動を国際社会は止められなかった。果たして強力な経済制裁が事態を収拾する効果を持つか。
この事態は、おそらく冷戦終了後の国際秩序が崩壊していく歴史上の分水嶺となるのではないか。果たして米国は、中国は、どう動くのだろうか、そして日本はどう考えるべきか。
ロシアは2014年に黒海艦隊を擁する戦略的拠点であるクリミアを併合し、シリアのアサド政権を支援して地中海沿岸に基地を持つなど、NATOに対峙していく姿勢を明確にしてきた。クリミア併合に対する米欧からの制裁措置を受け、外貨準備の積み増しや石油ガスの輸出先の多角化をはかり、更なる制裁に耐える体制も強化してきた。
プーチン大統領にとって最も重要な戦略的動きは中国との連携だったのだろう。かつてない程強固な連携関係を築き、北京五輪時の首脳会談では石油天然ガスの中国への輸出拡大を合意した。決済通貨はドルではなく、すべてユーロだ。
そして、ウクライナをロシア国境、ベラルーシ、黒海の三方から19万人に達すると伝えられる兵員で包囲し、ウクライナや米欧に対して「ウクライナがNATOに入らない法的保証」という飲めない条件を突きつけた上、時を移さず、ウクライナ東部のロシア系人口が多い地域の独立を認め、友好条約を結び、集団的自衛権の行使として侵攻を開始した。
ウクライナ軍を武装解除して傀儡政権を作るつもりなのか。果たしてロシアとウクライナの停戦協議は実を結ぶのか。いずれにせよウクライナがロシアの意に沿わない行動をとれば軍事的行動をとる、という体制を維持していく考えなのだろう。
何故、そのような蛮行を止められなかったか。NATOという強大な軍事機構を持ちながら米国は何を考えたのだろうか。
ウクライナはNATO加盟国でないから防衛する義務はない。しかしこれまで米国もNATOも民主主義を守り、テロに抗し、大量破壊兵器の拡散を止めるとしてNATO 域外で軍事的行動を行ってきた。ウクライナは明々白々侵略されているのに、ロシアは核大国だから戦争は出来ない、同盟国ではないウクライナの戦いは座視せざるを得ない、ということか。
バイデン大統領はかつてない強力な経済制裁で対抗すると述べ、欧州も自国経済に悪影響必死のSWIFTからのロシアの排除など強力な制裁に合意した。結果的にロシアからの石油天然ガスの輸出は制限されることになるし、強い制裁は西側の経済にも打撃を与える。しかしルーブルは暴落するだろうし、ハイパーインフレがロシアを襲うのだろう。
西側経済の一定の犠牲の下で、プーチン大統領の蛮行が一刻も早く止められることが期待される。グローバリゼーションの下での経済相互依存関係が鍵となるか。
ただ、どんなに強い制裁でも制裁だけで局面を変えるのは難しい。外交が機能しなければならない。しかし外交では100%の勝利はない。スウェーデンやフィンランドといった本来西側の諸国がNATOに加盟しないのはロシアと言う強大な国を敵に回したくないという理由があったからだ。ロシアはベラルーシ、ジョージア、ウクライナは生命線と考えているのだろう。そういう状況を組み入れた合意は不可能ではなかったはずだ。
しかしロシアに妥協した形になるのは、それもできないと言う事か。これ以上無益な血が流れるのを止めるため、停戦のため国際社会は必死になるべきではないか。
米国は疲弊した。中東における二度の戦争で米国兵士を含む多くの犠牲者を出し、数兆ドルの予算を消費し、成功とは言い難い結果に終わり、アフガニスタンからの撤退も同盟国を見捨てたという批判を巻き起こしたことは米国の威信を更に傷つけた。「世界の警察官」であり続けることには、もう無理があるのかもしれない。
トランプ大統領の時代はそれまでも存在していた所得格差や人種に起因する米国の分断を一層深めた。コロナ・パンデミックは民主党と共和党の党派的分断を改めて露呈するとともに、インフレの昂進と相まって米国の内向き志向は強まった。もう他の国の事には構っていられないという雰囲気があっても不思議ではあるまい。バイデン大統領が早々と軍事介入するつもりはないと述べたのは、そういう国内的雰囲気を念頭に置いての事なのだろう。
おそらくロシアを抑止できなかった米国は今後、国際社会からロシアを徹底的に排除するという方向に傾いていくのだろう。バイデン大統領は中国を唯一の競争相手として対峙し、ロシアとはある程度安定的な関係を維持する考えであったと思われるが、これからはロシアと中国双方に対峙していく戦略をとっていかざるを得ない。中東の戦争では米国自身が単独でも、という勢いであったが、今やバイデン大統領はNATO諸国や日本などの安全保障の負担の拡大を求めていくのだろう。
そもそも2014年にロシアがクリミアを併合した時期からロシアは北方領土をオホーツク海から太平洋に抜ける戦略的要衝の地と見、日本に返還すれば日米安保条約が適用され米軍基地が置かれるのではないかとの懸念を強く口に出しだした経緯もあり、今後の米ロ戦略的対峙の中で北方領土問題の解決はますます困難となる。そのような状況の中、ロシアに対し民主主義諸国が結束して強い措置を講じていく事は日本にとっても重要だ。
SWIFTからの排除を含めた経済制裁が本格的に導入されていくと、ロシアが中国との連携に活路を見出そうとするのは目に見えている。強大な核戦力と豊富な石油ガス埋蔵量を持つロシアと、同じく核兵器国であり、14億の市場を持ち米国を追い上げる経済力を有する中国が結びつき、西側同盟国とは軍事的、政治的、経済的に分断されていくと、「第二の冷戦」と呼ばれる事態となるのだろう。
しかし、中国は他国の主権侵害であるロシアのウクライナへの侵略を全面的に支持していくとは建前的に考え難いし、経済的に分断されていく事も自国の利益ではないので、ロシアと同盟関係同然の関係となることはないのだろう。
ロシアとは比較にならないほど国際経済社会と濃厚な相互依存関係があり、米中対立が厳しくなっても米中貿易や日中貿易は拡大しており、西側社会と分断されることは中国共産党にとっての優先事項である経済成長を大きく阻害していく。中国は余程追い詰められない限り、そのような事態が自国にとって好ましいと考えることはあるまい。
一方、中国はロシアからの石油天然ガスの輸入増加を歓迎し、ロシアへのハイテク技術の輸出も増大するだろうし、経済的依存関係は拡大していくのだろう。中国はウクライナ問題に対する米国の行動も観察しているだろうし、米中対立がさらに激化する場合にはロシアとの戦略的関係を強固にしていくものと考えられる。
中国はロシアを有用なカードとして考えていく事は間違いがない。
米国の抑止力の低下や国際社会での指導力の低下は日本にとって全く好ましい事態ではない。中国がウクライナの状況を見て尖閣諸島や台湾に
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