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ウクライナ軍、善戦の理由〜陸軍的な視点から分析する

企業経営にも通じる思考法

山下裕貴 元陸将、千葉科学大学客員教授

 2月24日、ロシアがウクライナの飛行場や重要施設などにミサイル攻撃を行い、軍事侵攻を開始した。ロシアは昨年の11月頃からウクライナ国境近くに軍を集結させ、今年に入り兵力は約19万人に達し侵攻の可能性は日増しに高まっていた。しかしながら多くの人々は「まさか本当にロシア軍がウクライナに侵攻するとは」と考えていたのではないだろうか。

クリミア併合時とは違う戦い方

 ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻をめぐり米国国防総省高官は、ウクライナ軍の激しい抵抗にあい、首都キエフへの侵攻がロシア軍の想定よりも遅れているとの認識を示したとマスコミが伝えている。まだ戦争が開始されたばかりでこの認識が正しいのかロシア軍の計画のとおりなのかは分からない。しかし各国のマスコミ報道やSNSなどを総合すると、2014年のクリミア併合時のウクライナ軍とはかなり違う戦いを行っているようだ。米国政府の元高官はウクライナ軍が欧米の支援を得て、以前と比べて装備も能力も格段に向上していると指摘している。もちろんロシア軍の攻撃計画が完全ではなかった可能性もある。こうした点も含めて、ウクライナへの軍事侵攻が終了し、時間が経てば今回の戦争の実態が見えてくるだろう。

ウクライナの首都キエフ近郊で訓練する「領土防衛軍」の志願兵(2022年2月5日、金成隆一撮影)拡大ウクライナの首都キエフ近郊で訓練する「領土防衛軍」の志願兵(2022年2月5日、金成隆一撮影)

 今回は視点を変えて、ロシア軍に比較して戦力の劣るウクライナ軍が善戦している理由を一般的な陸軍の思考過程に当てはめて定性的に考えてみたい。

ウクライナ軍の戦い方をシミュレーション

 陸軍は作戦を開始する前に、地域の考察、情報の収集、人事・兵站支援の可能性などを分析・評価し最適な作戦計画を作成する。この思考過程でウクライナ軍参謀本部が作戦(防御)計画を作成したと仮定してみる。

 一、地域の考察では、戦場はウクライナ国土であり河川や山地丘陵、人工物、市街地など細かな部分までウクライナ人は掌握している。地元出身者であれば小川や脇道など隅々まで熟知している。どのような場所が迎え撃つのに最適な場所かなどの詳細な分析を行う。

 二、情報の収集では、一般的に防御側は受動的であり攻撃側の攻撃方向や集合地域、補給幹線・地域などの情報の入手が困難である。しかし今回のウクライナ軍には米国などの西側諸国から偵察衛星や電波情報などを利用したリアルタイムのロシア軍情報が伝えられていると推測される。敵の攻撃要領や脆弱な補給幹線などが把握でき、これに対する最適な防御戦闘や伏撃・襲撃が可能となっている。おそらく米英の関係者が情報連絡員として配置されているだろう。

高台の塹壕で警戒を続けるウクライナ軍の兵士(遠藤啓生撮影)拡大高台の塹壕で警戒を続けるウクライナ軍の兵士(遠藤啓生撮影)

 三、人事では、キエフやハリコフといった重要地域の地域防御部隊(師・旅団)には統率力があり大部隊運用のベテラン指揮官を、戦闘陣地守備部隊(連・大隊)には強い使命感と人望のある指揮官を、戦闘部隊長(中隊)には実戦経験(東部地区)があり担当地域を熟知した指揮官をそれぞれ配置する。作戦開始後の兵員補充も考えなければならない。市民を武装化した民兵の編成などを行っている様子が報道されたが、さらに防御地域に残留している市民の協力を得る必要がある。

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筆者

山下裕貴

山下裕貴(やましたひろたか) 元陸将、千葉科学大学客員教授

1956年宮崎県生まれ。1979年陸上自衛隊入隊、自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などを歴任し2015年に退官。現在は千葉科学大学客員教授、日本文理大学客員教授。著書に『オペレーション雷撃』(文藝春秋)など。アメリカ合衆国勲功勲章・功績勲章を受章。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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