コロナ対策徹底批判【第四部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑭
2022年03月03日
厚生労働省の医系技官や国立感染症研究所などに連なるこの国の「感染症ムラ」。このムラ出身の「専門家」たちが進めてきた日本のコロナウイルス対策は、最初から現在に至るまでほとんど間違いだった。
そのひとつに、「PCR検査を受けるには37.5度以上の熱が4日以上続いている者に限る」という厚労省の発したメッセージがある。ほとんどの人が記憶しているだろう。そして、さすがにこの非科学的なメッセージでは都合が悪くなると、当時の厚労大臣が「国民の誤解だ」と逃げたことも覚えているだろう。
科学や医学は本来、政治権力からは独立しなければならない。時の権力からいかなる弾圧があっても、コペルニクスやガリレオが唱えた地動説が世界の歴史に残ったように、科学の真実しか人間社会には残らない。
この国の「専門家」たちはなぜ、科学的であるべきコロナウイルス対策を間違え続けるのだろうか? 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏に引き続き、話を聞いた。
コロナ「専門家」が科学的な正しさより重視するものとは~上昌広氏に聞く
コロナ禍で限界を露呈した「感染症ムラ」のとんでもない実態~上昌広氏に聞く
「悪意はない」コロナの専門家たちを生んだ根源的問題~上昌広氏に聞く
上 感染症の「専門家」たちが目を向ける厚労省の医系技官の問題は、全員が厚労省に無試験で入ることができて、全員が出世を約束されているというところです。たとえば財務省であれば出世を目指して激しい競争があるんですが、医系技官にはそれがありません。
しかもはっきり言えば、大学の医学部を卒業した人間が構成する医療業界では最も軽く見られています。たとえば分科会会長の尾身(茂・地域医療機能推進機構=JCHO=理事長)さんや岡部(信彦・川崎市健康安全研究所長)さんたち「専門家」の人たちは、そういう医系技官と共鳴する人たちです。彼らには、たとえばノーベル賞候補者である中村祐輔(東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授)さんたちは使えません。
――しかし、「専門家」と称されているので、世間一般の人たちは専門知識があると思いますよね。「医系技官」という名称も医学の「医」がついているわけですから、医学知識があるに違いないと思いますよね。そういう人たちが話し合って出してくる対策だから間違いないと思うのが普通ではないでしょうか。
上 日本のメディアが普段からCNNやロイターにもう少し接していれば、海外の論文なんかいっぱい出てくるわけですよ。別にアメリカにこだわっているわけではなくて、そういうアメリカのメディアには海外のものが出てくるんです。日本では厚生労働省の研究班という名前で研究が出てくるんですが、私は、こういう形は日本でしか見たことがありません。
これは科学というものに対する認識の問題です。私は、科学は誰が何と言おうが、ローマ教会が言おうが国家が言おうが、間違っているものは間違っている、正しいものは正しいというものだと思っています。研究者に国がお墨付きを与えようというのは、「途上国」のメンタリティですよ。
ガリレオ・ガリレイの地動説裁判以来、科学者に国家権力や教会権力がお墨付きを与えてはいけないというのが欧米先進国のコンセンサスです。だから欧米では「ネイチャー」や「サイエンス」といった独立系の科学媒体が存在する。また、アメリカ医師会誌(JAMA)がコロナウイルス対策で徹底的に主張を貫けるのは、経済的に自立しているからです。日本はそういう面が、まだまだ途上国なんです。
――2020年3月2日に出した専門家会議の見解が、政府・医系技官からの圧力に屈したのが象徴的ですね(参照:「『悪意はない』コロナの専門家たちを生んだ根源的問題~上昌広氏に聞く」)。最初の版では「無症状」という言葉が入っていたのに、「削ってくれ」という医系技官の要請を受け入れて、簡単に削った。『分水嶺』(河合香織著・岩波書店)によると尾身さんは迷ったということですが、科学者ならばおかしいことですよね。
結局、無症状感染者の存在を知らせず、抽象的に「若者に呼びかける」というメッセージを出した。「若者」は戸惑ってしまいますよね。実際、このメッセージには非常に違和感があった。本来はこの時点で大量の無症状感染者がいるという事実を広く知らせ、感染症対策の基本である「検査と隔離」に立ち戻る。つまり、PCR検査を徹底して、陽性の人は隔離に入ってもらう。陰性の人には社会活動を進めてもらって経済的打撃を和らげるという基本的な対策に転換することが必要だったのではないでしょうか。
上 そう思います。
――ところが、専門家会議は厚労省・医系技官の圧力に屈して「無症状」という言葉を削り、「若者に呼びかける」などという意味不明の見解を出しました。
上 このあたりから専門家会議の人たちが逸脱し始めます。
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