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コロナ「専門家」と自民党政権はなぜ間違いを正せないのか~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第四部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑮

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 コロナウイルス対策に関して、日本の「専門家」と称する人たち、そして自民党政権は、その最初からほとんどすべて間違えてきた。驚くべきことに、「専門家」たちや自民党政権は間違いを認めず、現在に至るまでその間違いを繰り返し続けている。

 なぜこのような事態が生じているのか。基本的な原因はどこにあるのか。臨床医でありながら世界最新のコロナ知識を渉猟し、日本の医療政策をウオッチし続ける医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏に、対策のスタート時点に戻って質問を重ねた。

拡大上昌広・医療ガバナンス研究所理事長

何も考えずに積極的疫学調査のシステムを採用

――繰り返しになりますが、2020年1月16日に日本で初めてコロナウイルスの感染者が確認され、翌17日に厚生労働省が国立感染症研究所に対して積極的疫学調査の開始を指示しました。その後、1月24日にイギリスの世界的医学誌『ランセット』が、無症状感染者の存在を伝える記事を載せた。香港大学の研究チームの報告です。厚労省も1月30日に無症状感染者の帰国者を確認、明確に認識した。

 その通りです。

――無症状感染者がいるとわかれば、濃厚接触者への積極的疫学調査だけでは不十分だ気が付きますよね。感染者に対する濃厚接触者の定義をいかに厳格にしたところで、濃厚接触者の網をすり抜ける無症状感染者が必ずいる。検査の網を広げて検査を徹底しなければだめだと思い至るはずです。しかし、厚労省の医系技官や専門家会議の人たちはそうしなかった。厚労省の医系技官や感染研、専門家の人たちはなぜここまで積極的疫学調査というものにこだわっているのでしょうか。

 以前、上さんからお聞きしたことですが、一つには予算の問題がありますよね。積極的疫学調査やクラスター対策を感染研や保健所が中心になってやることで予算が下りてくる。感染研や厚労省は予算の構造を変えたくないので、ほとんど意味のない積極的疫学調査の構造にしがみついてきたのでしょうか。

 積極的疫学調査をすれば自動的に予算が下りるので、利権が生じたことは事実だと思います。ただ、その利権を猛烈に守りたい誰かがいて、その人が積極的疫学調査の旗を振ったという感じはないと思います。

 厚労省記者クラブもそうなんですが、医系技官や感染研はSARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザの時に積極的疫学調査による対策が成功したと思い込んでいるんです。それで今回も何も考えずに積極的疫学調査のシステムを採用したんです。これは感染症法という法律に則っているので、医系技官は免責される。たとえ間違ったとしても、「法に則って粛々とやっただけです」と言えるわけです。

 コロナ対策の関係者には、積極的疫学調査の専門家ばかり集まるので、「何で俺たちが批判されなければならないんだ」と思ってしまいます。この人たちは『ランセット』なんか読める人たちではない。いわゆる科学の基礎学力はあまりないと思います。言ってみれば「烏合の衆」みたいなイメージです。

拡大umaruchan4678/shutterstock.com

方向転換をさせるリーダーがいない

――無症状感染者がいっぱいいるということが認識された瞬間、本来なら「積極的疫学調査だけではかなり漏らしているぞ」と気が付き、検査の路線を変えていかなければいけなかったんだけれども、ピンと来る人がいなかったと。

 さすがにその可能性を考えた人はいたと思いますが、そういう方向に検査を転換させるようなリーダーがいなかったということです。

 要するに、烏合の衆なんです。医系技官や専門家たちが意見を取りまとめて何かやったというわけじゃない。感染症法に則ってやっているだけ。それが何も考えずにやれる方法なんです。批判されたら「そうじゃない」という理屈は言うでしょうけどね。

 逆に言えば、感染症法の体系を変えて対策を考え直そうという根回しができる人間がいないんです。思ったとしても結局できないので、「自分たちは正しい」という理屈をいろいろと言い出すんです。

――まずリーダーシップを取れる人間がいないということですね。

 そういう力のある人が、そもそも感染症対策の専門家の中にいません。メディアや政治家に「感染症対策の司令塔を作れ」という議論がありますね。しかし、単に司令塔を作ったってうまくいきません。大臣も医系技官も司令塔ですよ。だけど、実力がないのでうまくいかないんです。

 現在は感染症法という法的根拠があります。医系技官や専門家はこの法的根拠に従っていれば免責されます。逆に、その通りにやらないと怒られる。だけど、この法的根拠では現実に合わないとなったら、それを変えなければいけないんですが、軌道修正に踏み切れるような人がいないんです。さらに、先ほど指摘されたように、この法的根拠に則って粛々とやっていれば、利権につながるんです。公共事業と同じです。

――つまり、積極的疫学調査を変えなければいけないと気が付いた人はいるんだろうけども、感染症法に定めがある方法から路線を変えるほどの政治力を持つ人がいない、ということですね。

 政治家には到底わかりません。だから、そのことを早い段階で「違う」と言わないと、既成事実がどんどん積み重なり、方向転換できなくなるんです。

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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